第116話 3人目のアウクシリア?

 大爆発から一夜明け、翌日から当然のようにカトレナーサも〈葡萄の木亭〉の朝食に加わった。仙川とお揃いの服を着て卓につく。

 仙川と同じ水色のワンピースはデザインこそ質素だったが、カトレナーサの美貌は少しも揺るがない。

 ようやく仙川の存在感になれてきた兵舎組であったが、カトレナーサが加わるとその非現実感がより増強され、明らかに浮足立った。

 ある者は食べることを忘れ、ある者は食べるのをミスし自分の指をかじったりと失態をさらした。

 九十九も2人がそろうとドラマの中にいるような気になった。2人は花のように華やかだったが方向性は違うと思う。

 仙川は菖蒲のようで、カトレナーサはミモザのようだと九十九は感じる。

 食事が進まないので九十九はしかたなく皆の平常心を取り戻すべく、話しかけていった。


「今日は北六条たちが乳母ギルトに行ってくれるんだって? 本当に助かるよ」


「あ、ああ――てかこうみえても俺は3兄妹で妹のおしめを7歳から換えていたから任せてくれよ、九十九っち」


「よろしく。川崎、新代田はどうよ? 赤ん坊、何とかなりそう?」


「えっ――えっと、うん、どうだろう? ははっ」


「やった時ないけど――教わればだいたいできるみたいな……」


 カトレナーサに見とれていた新代田・川崎だったが赤ん坊の話が出ると露骨に暗い顔となった。これは現役男子高校生ならば普通の反応だろうと思う。

 そんな2人にカトレナーサは晴れやかな笑顔を向ける。


「男性だけで赤子の世話をすると聞き、大変感動したのです! わたくしの故郷では男子は赤子の世話など絶対にしないのです。それは貧民や奴隷であってもです! センカワの国では育児に男子が参加されると聞いて心から尊敬しているのです!」


「ま・ま・任せてください!」


「当然です! だいたい何でも僕はこなせますから!」


「まあ頼もしいのです! 応援させていただきますのです」


 カトレナーサの励ましを受けると新代田・川崎の顔から一瞬で憂いは消え、さもできる男という雰囲気を瞬時に醸し出す。

 その豹変に目黒、万代、日立が一瞬軽蔑の目を向ける。美人に気に入られようとする様を見抜かれたのが九十九にはわかった。

 となると、九十九の気持ちは新代田・川崎に傾く。立場が違えば自分も新代田達のようになった気がしたからだ。

 何とか無事に育児サポートを終えて欲しいと願うしかない。

 



 妙に疲れる朝食を終え、九十九が自室に入ろうとすると仙川とカトレナーサもついてきた。


「カトレナーサもアウクシリアになるといっているの。三田くんに了承していただけるかしら?」


 開口一番の言葉に九十九が驚く。


「ええっ? カトレナーサが銀河第三連合に所属!? それ本気?」


「はい! 昨日センカワに銀河の存在を教えられ、人類の自由と権利のために結束し闘うという姿勢に感銘を受けたのです! 人類という言葉は初めて聞いたのですがその概念の凄さに心酔したほどなのです。どうぞわたくしも銀河第三連合の末席に加えてもらえないか検討して欲しいのです!」


 急転直下の展開に九十九がフリーズしていると、仙川が少しあきれたような顔をする。


「そんなに驚くことかしら? アンライトさんだって即決で志願したのを忘れたのかしら」


「いやいやアンライトの時だって驚いたさ。でもカトレナーサは色々立場がある人間だから――」


 九十九は時間が経つほどに事態が面倒な方に行っている気になる。カトレナーサが今の肩書・立場を全て捨てることで何が起きるのかわからない気がした。

 また仙川がカトレナーサにどう説得したのか気になる。あの巧みな話術でこの純真な乙女の精神を侵食したのではないかと思うと不安になる。

 〈葡萄の木亭〉に戻ってから九十九は仙川とカトレナーサとはあまり会話をしていないのでどんなやり取りをしたのかわかっていない。大爆発のショックを一緒に経験したことで2人が仲良しになっていったのを把握しているぐらいだ。

 九十九の視線に気づいた仙川がナノメタル細胞を通じて交信する。


「わたしは隠し事は良くないと思い、教えられる限りのことを教えただけなの。もちろんジェスガインのことやゲーム世界の話はしていないけど。昨日2時間ほど説明したのだけどログにあるから気になるならば見て見ればいいんじゃないかしら?」


「そ、そうなんだ。いや仙川さんのことは信頼してるから――」


 洗脳のような畳みかけをしていないと仙川が言っているのが九十九に伝わった。

 カトレナーサが純粋にアウクシリアになりたいというならば受け入れたいが、カトレナーサがネームドキャラクターだとすると今後予期せぬアクシデントが起こるような気がしてくる。

 何らかのイベントのトリガーになったり、特殊なアイテムや魔法を入手する手段を持つネームドキャラクターという存在がこのゲーム世界内に存在するかはまだわかっていない。

 だがカトレナーサほどネームドキャラクターである可能性がある者もそうはいないだろう。

 九十九は判断一つで何かのイベントが分岐してしまうのではないかと怖くなった。

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