エピソード11「まるで黙示録のように……」

第115話 大爆発のあと……

 〈当千のサハヴァン〉に爆発の件を知らせた九十九たち3人はブロズローンに戻った。

 サハヴァンはより詳細な報告を求めてきたが、3人が煤けていることに気づき、「また後日」ということになった。とんでもない爆発を起こした九十九達を大公領の冒険者は全員恐れていたので食い下がってはこなかったのだ。

 15キロ離れていた街道にいた大公領の冒険者たちも当然あの大爆発を目撃していた。

 九十九はブロズローンに戻るまで、仙川のへらへらとした語りを聞かされることになった。無駄にハイテンションで話の中身がないのだ。

 カトレナーサも〈葡萄の木亭〉になってきて、仙川の部屋に泊まることになる。カトレナーサは爆発のショックの他に寝不足と疲労で心棒が抜けたようになっていたからだ。

 九十九はモンスターを討伐した時にある疑問が頭をよぎっていたが、口にするのを止めることにした。今は頭の中で考えがうまくまとまらない。

 ともかく今日は2人には休養が必要と思い、九十九はカトレナーサが泊まることの報告を宿屋に取り付け、急いで多量の御湯を仙川のところに届けてもらう手筈を整える。

 すでに〈清浄ピュアリティ〉のレベル2で綺麗になっていると九十九は思ったが、仙川がお湯を欲しがったのだ。

 女子とはそういうものらしいと九十九は納得した。


 2人のために雑事に走る九十九を見て、兵舎組の女子の万代、日立中、目黒が声をかけて来る。


「あっ、九十九ちゃん、仙川さん帰ってきた? 乳母ギルトで赤ちゃん達をあと5日だけ面倒見てもらえるって。要するにこれで少しは安心できるんじゃない? グフフ」


 小柄な体を揺らして笑う万代を九十九は思わず両手で拝む。


「すまん、突然の丸投げで。おまけにお金まで貸してくれることになって、色々本当にすまん!」


 九十九は仙川に代わって謝罪した。仙川は万代達に〈輝きの狼〉が見舞われた赤ちゃんパニックのことを説明し、サポートしてくれないかと言い出していたのである。

 これを兵舎組は快諾し、弟妹の育児体験のある万代と北六条が率先して行ってもらうことになった。今日は女子の番ということで万代たちが乳母ギルトにいっていたのだ。

 華奢な印象のある日立中は胸の前で握りこぶしを作る。


「わたし達、今度は明後日乳母ギルトに行ってお手伝いするんで、ここは信頼して任せてくれていいじゃないですか?」


「もちろん、助かるよ。しかもキュクロプスの代金の使い方を勝手に決めてしまって……」


 どこかタヌキ顔をした目黒が九十九に否定の言葉を向ける。


「キュクロプスの金について兵舎組は誰も権利を主張してはいないですよ~。だってあれは全部フギンさんの手柄ですから」


「あ、そういえばそうか。なんだか色々忙しくてキュクロプスのこととかよく覚えてないんだよね」


 九十九は最近起きたことの時系列がわからなくなってきており、素直にそういった。

 万代は黒メガネの下の顔を溌溂とさせ、ドンと自分の胸を張る。


「お金は〈輝きの狼〉だってもらう資格があるし、赤ちゃんは人類の宝だよ。要するに〈輝きの狼〉はもはやソウルメイトだし万事OKなの!」


 普段はオドオドしていた万代がそういう様はまさに「お姉ちゃん」といった様子だった。子育てとは無縁そうな日立中も目黒も異論がなさそうだ。

 九十九はまたも頭を下げる。


「そういってもらえると助かる。正直に言って俺なんか『おしめを換える』って考えていただけでビビっていたし――」


「みんなそんなもんだよ! 要するに慣れだし! グフフ」


 そういって万代は九十九の肩をポンと叩いて去っていった。

 九十九はその瞬間、心の中がスッと軽くなる気がした。

 そうだ、助けてもらっておいて被害者ズラを続けるのも図々しいよな

――九十九はもうこれで3人には「いじめられている自分を見捨てた人でなし」と思うことは止めにしようと思った。恨みと感謝で相殺したのだ。

 彼女たちにとって赤ん坊の相手をするのが大したことではなかったとしても、本当に困っていた九十九を助けてくれたのは事実だ。

 自分が逆の立場ならば、異国の知らない赤ん坊の世話をすることに酷く抵抗したに違いない。

 今回の子捨て事件も自分に責任がないのはわかっている。だが無計画に〈輝きの狼〉をレベリングにつき合わせ、大金を掴ませてしまったことは「関係がない」というのも無理がある。

 「赤ん坊の命8つを守り抜け」というのは、悪魔ジェスガインでも思いつかない高難易度イベントだと九十九は思う。

 それを鮮やかに解決してしまう助っ人を恨む才能が、九十九にはないのがわかった。

 九十九は思う。もしも明日、新代田や川崎も赤ん坊を華麗に世話ができたらまた許すのだろうか、と。

 まあそれはその時、心のままに決めればいいと思った。

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