第2話 カレー味のカップ麺

「……であるからして……我が校は……に力を注ぎ……」


 長い入学式が終わって各々が寮へと向かう。

 クラス分けの結果、私は一年三組になった。みんな、少しは知り合いがいるようで誰とも話していない人は私だけ。

 だからといって誰かに声をかけられるほどコミュニケーション能力があるわけでもなくただ一人で歩いていた。


「アンタ。これ落としたよ」


 突然肩を叩かれ、後ろを振り向けば金髪の男の子が立っていた。

 彼の手には水色のハンカチ。金髪でピアスをつけた男の子が待っているものとしては可愛らしすぎる。その情景に、拾ってもらったのにもかかわらず私は笑ってしまった。


「……」

「あ、ありがとうございます。助かりました」


 彼はもともと大きい目をより大きくさせて驚いているようだった。その様子を見て少し恥ずかしくなっていると彼は口を開けた。


蒼翔あいとー?」


 しかし途中で遮られるとその言葉に反応してそのまま彼は走ってどこかへ行ってしまった。


………

……

 寮の部屋に届いていた荷物をすべて取り出し片付けた。

 長い間作業をしていたのでどっと疲れが訪れ、ベッドに横たわってスマホを触った。

 メールの通知が来てい他ため、なんだろうと思い開いてみると妹からのものだった。


‘‘あたらしい学校どう?楽しい?’’


 妹の美海みみとはよく連絡を取り合っている。たとえ、美海にコンプレックスを持っていたとしても彼女が嫌いな訳では無い。

 あの家の中で、家族らしい会話は美海としかしたことがない。ある意味、美海は一番の家族だと思う。


‘‘まだ一人しか話してないけど、ヤンキーっぽい人がいたよ’’


 そう送ると、携帯を閉じてキッチンの方へと向かった。水を沸かしてカップ麺ができるのを待つ。

 華の高校生という言葉があるのだ。今だからこその学校生活を楽しみたい。

 そう思いながら、カレー味のカップ麺を食べる。はじめて食べたそれは結構からかった。


「蒼翔、ありがとうな。あいたちの面倒見てくれて」

「別にいいよ」

「すまんな、私が仕事をすぐ終わらせられないばかりに」


 真奈まなと同じ青南せいなん高校の男子寮にて、スーツを着た四十代ほどの男と制服を着た高校一年生だと思われる男が話していた。スーツの男は手に五歳くらいの子どもを抱えている。


「それじゃあ、おやすみ。蒼翔」

「あぁ。親父もちゃんと寝ろよ」

「ハハッ、善処はするさ」


 スーツの男が部屋を出ていくと、制服を着た男――蒼翔――は部屋の中のベッドへと身を任せた。


「親父、またクマできてたな。

……はやてとの話、なしにしてもらうか」


 顔を手で覆いながらそう呟いた蒼翔は唇を少し噛んだ。


「親父が悪いわけじゃねぇってわかってんのに」


 その唇から紡がれた小さな言葉は大きな部屋に溶けていく。

 蒼翔はそのまま目を閉じた。

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風に靡くは桐の花 黑紅 @mizukisimotuki

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