第8話


「行こうか。」

また日は巡って次の日。

あまりにもあっさり次の日が始まったので、この瞬間からもう年末までは夢が続くのだろうなとあきらめた。

背後からいつもの運動のリハビリを担当してくれている同い歳のPT、はるちゃんがそう声をかけてくれた。

はるちゃんとは同い歳という事もあり、よく話した。はるちゃんから恋愛の話を聞くこともあった。

「彼氏は?いないの?」

数話前でちらっと言ったがその当時は付き合っている彼氏がいた。

しかし元々少し恋愛については自他ともに認めるドライなところがあったためこの瞬間まで障害では無くただすっかり忘れていた。

(うっ...!!!)

思い出してしまった。

しまった。と思った。

私は元々生存確認位の頻度でしかLINEを返さず、彼も連絡が少ない所が好きだったがさすがに2ヶ月弱彼女からの連絡が無いのだ。

何か連絡が来ていてもおかしくはない。

まずいなと思い、事故をして初めて自分のスマホをつけた。やはりLINEの通知はー、凄かったのだと思うが前から通知は放置してたので分からない。

昨日会ったうっちゃんに「LINE見ろ」と言われたので、せっかくだしいくつか既読を付け、メッセージを送った。

案の定、「最近全然連絡取ってないけどお仕事忙しい?」という連絡が来ていた。

絶賛ニート中なので忙しくないわけだ。

ここで私は自分が走馬灯を見ていると思い込んだ理由であり、周りが走馬灯の事を知らない、理解していないのなら走馬灯であると説明するにも面倒なので黙っておこうと思っていた(そもそも走馬灯じゃない)「両足義足」になるという事を伝えることにした。

何故この頃の私が唯一、彼氏にだけ伝えたのか。

そう。これも一重に「面倒くさい」からだ。

私はこの時、どんなに長くとも年越しにはこの夢も終わるだろうと思った。

つまりどんなに面倒なことも年越しまで引っ張れば終わりが来る。ここで私は考えた。友達や親には隠しているが、彼氏にも黙っておいた方が得策か、否か。

私の答えは、否だ。

正月に終わると思っていた。走馬灯が終わり、現実が始まる。

だからどう足掻いても2023年が終わればこの世界は終わる。友達や家族は正月まではどうせ会うのだし、「この世界は走馬灯だ。」なんて突然言い出しても、は?だと思うしそう思う理由を説明するのも面倒くさい。

しかし彼氏は家族とも友達とも関わりがない。現状を知らなかったのは当然と言えば当然だ。現状まだ会ってはいない。チャンスだと思った。上手く行けば年越しまで会わなくともよくなるのではないか。そう思っていた。

そして年越しまで回避すればこの世界と共に終わるだろう。

幸い当時付き合っていた人はとてもいい人だった。絶対「今すぐ会いたい」などと横暴なことは言わないだろうと思い、『事故をしました。両足義足になると思うので、リハビリも結構かかると思います。』

という、暫く連絡もしなくて済むように、何があって、どうなって、どうして会えないのか。と全て踏まえた、正月まで会わずに済み、全てを伝える。私からするとこれ以上無いほどの誠意を持った返事を送ったのだ。

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走馬灯じゃなかった話 ねこちやん @ymdskkms

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