第3話 露店

「流石、大国。端の方でも栄えてるって訳か」



 人の往来が激しいであろう場所は、やはり大国が故か。2人とも、あまり人の多い所は好まない質である。故に、2人は少し尻込みしており、別にここじゃなくても良いのだが……と逃れようとしている。

 最も近かったのがここなだけで、本当は行かなくても良いのだけれど、ここまで来てしまった以上は行かなくてはならない。

 スルタンはため息を吐き、ゆっくりと歩みを進めて行く。沢山の露店があるので、本来なら選り取りみどりだと感じるだろう。



「ジャンヌ、手を繋ごうか。はぐれたら、見つけられない」

「そう、ですね」



 ジャンヌは差し出された手を握りながら、周りをキョロキョロ、と見回している。

 「オススメだよ!」という声や、「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」という声がするのは、ジャンヌにとって、未だに不思議なのだろう。



「欲しい物でも見つけた?」

「アレ、アレが欲しいです」



 スルタンがジャンヌに問いかけると、ジャンヌは一点を見つめながら、指差す。

 露店で出ているかざぐるま。色とりどりの紙で作られたかざぐるまは、ゆっくり回っている。

 あまり風はないけれど、人の往来で回っているのだろう。



「かざぐるまか。確かに、お祭り以外ではあまり見ないね。いいよ、」



 スルタンが露店の店主に近付き、「かざぐるま、1本下さい」と何本もあるうちの1本を指さして言う。

 優し気な店主はこれかい?と指をさして、スルタンに確認する。スルタンが頷いたのを見て、「あいよ! 120円だ」と言う。スルタンが懐から、財布を取り出し、120円を店主に手渡す。



「ぴったり貰ったよ」



 はい、と店主がかざぐるまをスルタンに渡す。

 何も言わずに見ていたジャンヌにスルタンがかざぐるまを渡す。


(何だか、バケツリレーみたい)


 そんなことを思いながら、ジャンヌは気紛れにかざぐるまに息を吹きかける。くるくる、と回るかざぐるまは、綺麗で子供が好むのも無理は無いと思う代物だ。



「ね、ジャンヌ!」

 


 小さい子供の声がして、ジャンヌはくるっ、と後ろを振り返る。

 見覚えのある子供が、目をキラキラと輝かせて、かざぐるまを見つめている。



「……良いよ。あげます。大事に、使ってね」

「いいの!? ありがとう、ジャンヌ!」



 その子供はジャンヌから受け取ったかざぐるまを見て、「わーい!!」とはしゃぎ、息を吹きかける。

 クルクル、と回るかざぐるまに、さらに目を輝かせる。それがあるべき子供の姿だ、とジャンヌは思う。



「あれ、ジャンヌ、かざぐるまは?」

「……あげました」

「誰に!?」



 ジャンヌはただ笑う。

 困ったなあ、とスルタンは思い、「もう1本いる?」と問いかける。



「……いえ、いりません。どうせ、後でやって、とせがまれます。その時にでも、遊ぼうかと思って」

「そう。因みに、あげた子は?」

「せんせぃもご存知の子、です」



 何となく分かったのであろう、スルタンは何にも言わなかった。

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吟遊詩人と化け物の旅 @Hirari2

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