第2話 休憩終了

 あのやり取りから凡そ1時間後。

 ジャンヌは未だにぐぬ、となりつつ、そして嫌だと反抗する様に口をもにょもにょとさせている。

 スルタンは可愛いなぁ、と思いつつも、出発する用意をしていく。

 金がいくらあるのかとか、何なら変装する必要があるのかとか。変装する必要がありそうだな、と踏んで、地面に置いていたトランクを開け、中からウィッグを取り出す。

 それを見ていたジャンヌはそんなに物が入っていなさそうなトランクからでも、ウィッグなんて出てくるんだ〜と思う。



「ジャンヌもいる?」

「も、らいます」



 ビックリしながら、ジャンヌはその問いに答える。

 スルタンは「はぁい」と言って、月光の色をした長髪のウィッグを取り出して、ジャンヌに手渡す。

 どこから持ってきたんだろう。買ったのかななど考えるが、今聞いても、多分はぐらかされてしまうのが目に見えているので、何も言わずに受け取る。

 嘘はつかない。それは本当。けれど、隠し事はするし、聞かれたことをはぐらかすことだってする。それが、何だか悪い大人に見えて、何かを言いたくても、言えない状況が続く。

 舌の上でじわり、と苦味が広がる。ジャンヌはその苦味が罪の味なのだと知っている。そして、それは例えるなら、抹茶を飲んだ気分。罪はどっちのものなのか、分からない。けれど、まだ耐えられるから、その味ごと、ジャンヌは嚥下する。

 舌がビリビリするというのはないが、不快感だけは増していく。奥歯を噛み締めながら、スルタンから受けとったウィッグをつける。つけ終われば、ポケットからガラス瓶を取り出し、中に入っている飴を1粒、口の中に放り込む。

 べっこうの味がして、それに気を良くしたジャンヌはころころ、と口の中で転がす。不快感と共に多少の苦味も飴で消す。

 それを見ていたスルタンはうぅん、と静かに唸り、ポリ、と右頬をかく。


(やらかしたなぁ、)


 そんなことを思いながら、金のセミロングのウィッグを被る。

 バッグから手鏡を取り出し、位置を少しばかり調整する。そして、手鏡をトランクの中に放り入れ、頬を緩ませながら飴を舐めているジャンヌのウィッグを少し調整する。



「これでよし。ジャンヌ、飴が舐め終わったら、移動するよ」

「……ん、はい」



 その間、スルタンはトランクを閉める。

 ジャンヌは小さくなってきた飴をガリ、と噛み砕き、嚥下する。

 それを見て、スルタンは満足気に頷き、「用意はできた?」とジャンヌに問う。ジャンヌはこくり、と頷き返す。



「じゃあ、行こうか」



 先にスルタンが立ち上がる。差し出された手を取って、ジャンヌも立ち上がり、スルタンの横に並ぶ。

 問題に巻き込まれなければいいな、と思いながら、まだ温い風を感じて、ジャンヌは目を伏せる。

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