吟遊詩人と化け物の旅

@Hirari2

星が降ってくる

第1話 休憩

 少し温い風が頬を撫でる。今から行く大国に近い草原にて、自身の体と足を休ませる為に、暫しの休憩。



「うーん、いいねぇ。風が柔らかい」



 風によってそよぐ草の上に、スルタンはなんてことなしに腰を降ろす。

 季節が故か、あまり熱く感じない太陽と、温い風を感じていると、まるでピクニックの様に思えてくる。

 最も、ピクニックなどではないのだけれど。レジャーシートもないし、お弁当もないのだから、当然と言えば、当然である。



「……せんせぃ、」

「何だい?」

 


 せんせぃ、と呼ばれているスルタンが所在無さげにするジャンヌの声に伴い、斜め後ろへと振り向く。

 ぇ、と、と何かを言いたいけれど、言えない様なので、スルタンはぽんぽん、と自身の横の草を叩く。

 おずおず、とその場所に行けば、スルタンがゆっくりと立ち竦む様にしているジャンヌの手を握る。それは座っていい、という許可。



「ぁ、の、」

「うん?」

「次、行くとこ、は……あんまり、せんせぃとは折り合いが、良く、ないです、よね」

「そうだねぇ」



 なんてことなしに言う姿からは、過去の姿は見受けられない。

 逆にここまで、全く持って何とも想像出来ていない風な態度を取られると、困るのはジャンヌの方だ。

 ポカン……として、すぐ様被りを振る。



「ぃ、ゃ、ダメじゃ、ないんですか。せんせぃは、あの国を、嫌ってて……」

「そうだよ。あの国は嫌いだ。腐っている。腐った匂いがする。饐えた臭いがして、鼻を曲がらせる。君からしたら、とても、とても苦い味がするだろう」



 そんな所に行こうとするなど、馬鹿の所業だろう。

 スルタンの正体がバレる。それがいけないということは、何となく分かる。それでも、何も知らないが故に、ジャンヌはぐぬ、と黙るしかない。

 否、知っている。この世の誰よりも、何よりも知っている。けれど、それを口に出すことは出来ない。口がある。目がある。手足が、舌がある。それでも、言えない。



「でもね、今回、あの国に行くけれど、中心部には行かない。それに、あそこで君が舞う必要も、私が何かを唄うこともない。ただ、綿や布が足らなくなりそうだから、それらを適当に買うだけ。本当にそれだけ」



 スルタンはなんてことなしにサラリ、と流す。

 彼はジャンヌに対して、隠し事はしても、嘘はつかない。それが自身に課せられた贖罪だと理解しているからだ。

 ジャンヌは分かるけど、分からないという不気味にすら思える状況下かつ矛盾した状況下で、きっと、何かが起こると思う。

 起こされるのか、起きてしまうのか。スルタンの正義感──ここにはジャンヌも含まれる──で何かが起こるのか。それは誰にも分からないけれど。

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