となりの異世界【ショートストーリー】

すばる

となりの異世界【ショートストーリー】

この浜辺には、いろいろなものが流れ着く。


俺は海にその日の食材を撮りに行った後、砂浜を歩いて帰りながら、それらを見てまわるのが好きだ。




果物の缶詰の空き缶


割れたビール瓶


ポテトチップスの袋


ぐしょぐしょになった革製の鞄


と、人間。




おっ、人間は久しぶりに見たな~。



この海は、異世界に繋がっているらしい。海に大嵐がきた時、稀に異世界の海へと繋がると言われている。


嵐が去った後は、そんな異世界のものがたくさん流れ着く。今日はその日だったようだ。



「もしも~し、アンタ生きてる?それとも、死んでる?」


軽く足で突いてみたところ、その人間は微かにうめき声をあげた。どうやら生きているらしい。


「アンタ、運が良いね。大抵の人間は死んでるんだけど。朝から死体見なくて済んで良かったわ」


「んで、自分で起きれそう?……あ~無理っぽいかぁ。海水飲みすぎちゃったね」


仕方ないのでオレはその人間を担いで、自分の家に連れ帰ることにした。


「なんか人魚姫になった気分。でもコイツ、思いっきりスーツ着てるんだよなぁ~。社畜の王子サマとか笑える」


担ぎ上げた人間は何か言っていたが、気にせずにそのまま運ぶ。


今日はいつもより楽しい日になりそうだ。




*****




「うぉぉおっ!!なんだここ!?僕はどうなったんだ!?あれ!?」


自宅のソファに寝かせておいた人間は、昼近くには目を覚ました。


「落ち着けリーマン。アンタは浜辺に打ち上げられてたんだよ。覚えてない?」


「え?えっと、僕は会社に出社する途中で、台風が来てて、電車は止まってて。仕方ないから歩いて会社に行こうとしたら、川が増水してて、橋が見えなくなっててそれで……」


「あ~もしかして、その川ってさ、海に繋がってたりする?」


「は、はいッ、そうです!町内放送では海と川に近づくなって言ってたんですけど、その橋を渡らないと会社に辿り着けなかったんで!」


「なーるほど。サラリーマンの鏡だねぇ、ホント」


「あのッ!助けていただいて、ありがとうございます。それで、ここはどこなんでしょう?」


「あ~それなんだけどさ、アンタもう会社行かなくて良くなったよ。ってか行けない。残念、社畜サン」


「はッ!?えっ、ど、どういうことですかッ!?」


「まぁまぁ、とりあえず俺について来てよ」


俺はそう言って自宅のそばの海辺へと連れて行く。


ここは岩が多く、海底も深い。すぐに海に潜れるので、俺は気に入っている。


「ちょっとそこでみてて」


俺はそのまま海へと飛び込んだ。




*****




浜辺に打ち上げられていた僕を助けてくれた恩人が、波の荒い海へいきなり飛び込んだ。僕は慌てて岩に駆け寄り、海を覗き込んだ。


暫く経って浮かんできたのは……






なんと下半身が魚の尾びれになった恩人だった。






「ふぁッ!?に、にん、人魚!?僕は、僕は夢でも見てるのか!?」


ありえない。人魚がいるなんて、ありえないのだ。


「もしかして、僕は異世界に来ちゃったってことなのか……?」


「まぁ、そういうコト。つーか、俺からしたらアンタの世界が異世界なんだけど」


「そ、それは確かに」


「でしょ」


「いや、それにしてはサラリーマンとか社畜とか言ってた気がするんですけど!」


「この世界って結構そっちの影響受けてるっぽいんだよねぇ。まぁ、アンタみたいに流れ着いた人間とか物とかのせいかもね」


「なるほど。それは一理あるかも。って、そうじゃない!僕は一体これからどうしたらいいんだ!?」


異世界に流れ着いてしまった僕。


どうやらこの世界は、意外にも自分のいた世界と似たようなところがたくさんあるらしい。


しかし、突然一人で放り出されてしまったこの状況で、僕はこの先どうなってしまうのだろうか。


「とりあえず、俺の家にいれば?ずーっと一人だったし、話し相手が欲しかったんだよね」


この人魚がどんな人なのかよく分からないけど、今のところはこの人のお世話になるしかなさそうだ。


「ではお言葉に甘えて、宜しくお願いします。僕の名前は藤咲湊(ふじさきみなと)です」


「湊ね、ヨロシク~。俺の名前は海野辰之助(うんのたつのすけ)」











「いや!!!めっちゃ普通の名前!!!!」






異世界は案外近い場所にあるのかもしれない。

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