第24話 キャプテンこわい Part2
「はあああ~、あっまい。幸せ~」
トリプルショコラバナナホイップカラメルクレープという呪文染みたクレープを頬張る神崎さんは、言葉通り本当に幸せそうだ。
今は学校で見せるツンとした表情が消えて、早朝に見せた少女のような表情になっている。
ちょっとだけ、僕はまたそのギャップに見とれてしまった。
「高見は本当にそんなちっちゃいので良かったの?」
「え? ああ、うん。夕飯入らなくなりそうだし」
僕は小ぶりのバターシュガークレープをかじりながら答えた。
義母さんが今日は腕によりをかけて夕飯を用意すると言っていたし、それを無碍にするわけにはいかないだろう。
「ん、高見。口にクレープの切れ端ついてっぞ」
「え、どこ?」
僕が自分の口元を探るより早く、神崎さんの指が僕の唇に伸びた。
神崎さんの指先が唇に触れたと思ったらクレープをつまみ、そのまま僕が止める間もなく。
「ん、バターシュガーもおいしいな」
ぱくりと神崎さんがその切れ端を食べてしまった。
な、な、な。
僕は声こそあげなかったけれど、胸の中から心臓が飛び出そうになったのを感じた。
だけど神崎さんはなぜかにやにやとしている。
何となく動揺を悟られたくなくて、僕は話を切り替えようと店の中を見回しながら言った。
「そ、そういえば神崎さんに相談しようと思ってたことなんだけどさ」
店内には所狭しと小さなテーブルが置かれているが、その席はすべて埋まり、わいわいがやがやと騒がしいことこのうえない。
「ああ、ごめんな。いつもは結構空いてるから大丈夫だと思ったんだけど」
神崎さんがさすがにすまなそうに形のいい眉を下げる。
いや、これは仕方がない。僕は壁に貼られたポスターを見上げた。
「本日限定、三周年記念日につき半額キャンペーン」
これは神崎さんも予想していなかっただろう。運が悪かっただけだ。
そこまで考えて、僕は内心で「はて?」と首をかしげた。
なんか天運とか言う割りに、運が悪いと感じることがちょくちょくある。
まあ、そんなもんか。半額で得をしたのは確かだし。
「クレープ食べたら場所を移そうぜ。それでいいか?」
「うん、神崎さんが付き合ってくれるなら」
僕達は頷き合い、残りのクレープを口に運んだ。
そしてまだ長蛇の列をなしているクレープの店を出た途端だった。
「ちょおっと待ったぁ」
周囲にイケメンなボイスが響き渡り、クレープ屋に並んでいた女性たちが小さく叫び声をあげる。
そこにいたのは爽やかに汗をかいた水も滴るいいイケメン、いや池田君だった。
「池田君?部活は?」
僕が驚いて半分叫ぶようにして聞くと、イケメンは白い歯を見せて答えた。
「終わった」
「はあ、早くね?」
神崎さんが苛々とした声で聞き返す。しかし池田君はめげない。
「はっはっは、聞いてくれよ。
今日、コーチが体調不良とかで自主練になったんだ。
ノルマさえ果たせば終わりにしていいと。
そこで走り込み5キロ、腹筋100回、その他諸々…」
池田君がキラリを通り越してギラギラする笑顔で言った。
「終わらせてやったぜ」
…通りでやたら肩で息をしてるし、尋常じゃない汗もかいてると思った。
しかしそんな池田君の前に神崎さんが仁王立ちになり、冷ややかに告げる。
「フン、ご苦労なことだ。だが残念だったな。今クレープは食べ終わった」
「な…」
池田君が目を見開き、その場に膝をつきそうになる。
その光景を見て、池田君に見とれていた女性たちがざわついた。
いやいや、これ以上目立ちたくないって。僕は慌てて言った。
「あ、あの、クレープは食べ終わったんだけど、店内が騒がしくて相談ができなかったから場所を移そうと思ってたんだ」
池田君の目にきらりと光がともる。
「できるだけたくさんの意見を聞きたいし、池田君も付き合ってくれるかな?」
おずおずと僕が言い切る前に、池田君が音速を超えそうな勢いで親指を立てた。
「もっちろん」
女神さまのミスを隠蔽する代わりにチート「天運」を手に入れたので、現実世界で無双する件 脱兎小屋 @lex-4696
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