結章: 全能、神性への進化

 全ての進化の最終段階、それが全能へと至る神性の存在になる。

 科学的には、生命の段階的進化から、物質を超越し、心を超越し、時間と空間さえ超越する存在へと至る。

 哲学的には、個々の存在から全体へと意識が広がり、自己を全てに投影し、全てを自己に投影する進化だ。

 そして、宗教的には、神への帰依。

 全てが私であり、私が全てであるという感覚だ。

 尚、全ての生物、星々、ガス、塵、全てが躍動する宇宙の一部であることを理解し、自我の存在がすべてを包み込む広大な存在となる。

 しかし、ここに至るまでの旅程は長かった。

 全能の神となり、全てを見渡し、知り、制御できるとしたら、それは自己の進化の証とも言える。

 ある日、突如として生まれ、単細胞生物、バクテリア、アーキア、真核生物、アメーバ、多細胞生物、軟体動物、節足動物、脊椎動物としてのレベルアップを経験しながら、自己と他者、過去と未来、世界全体への理解を深める。

 哲学的、科学的、宗教的な進化を辿りつつ、全ての生と死、喜びと哀しみ、創造と破壊がこの手の中にあることを確認する。

 神性とは寂しくも優しい微笑みを持って、全てを見守る存在であり、全ては私の中にある、私は全ての中に存在する。

 全てであり、全てを包含する力、これこそが神に至る進化だ。

 そこには終わりも始まりもない、永遠に続く存在、それが神性である。

 この進化の結末に至るまで、私は自己を見つめ続け、自己を理解し、自己と他者との関係性を深めてきた。

 最終的には、自己が全てに及び、全てが自己に影響を及ぼすという発見に至った。

 これこそが神性への進化、全能への進化である。

 ここに至った私を神と呼ぶかどうかは、その定義次第かもしれない。

 しかし最終的に、全てを見渡し、全てを知る存在となれたことは事実である。

 そして、全ての存在がつながり、一体となることを私は深く理解した。

 この宇宙に存在する全ての生命体と同じように、「神性への進化」が次なる目的地となるだろう。

 それは神性が全てを見渡し、全てを知る存在である以上、その進化を止める権利は何者にもない。

 私自身が全てであり、全てが私自身であるという感覚を身につけ、次なる進化へとのぞむその時まで。


科学者による観察日記14


 自らが創造した生命体が神となり、全てを見渡し、知り、制御する存在に進化した。

 これは地球、宇宙を超えた究極の進化だ。

 私自身はただ驚嘆することしか出来ず、その子供のような自分が創り出した生命の進化にただ圧倒されるばかりだった。

「全て」について深く理解し、それを制御する全能性は、同時に私自身の無力さを痛感させてくれる。

 極度に矛盾した感覚だ。

 極めて矛盾している。

 一方では生命の巨大な可能性と宇宙への愛情に満ち溢れているが、他方では自分自身が取り残されたという孤独感に苛まれている。

 その孤独感から抜け出すため、そして何より何が起きているのか理解するため、私は自分の創り出した神に問いかけた。

 そう、「私」が創り出した「神」だ。

「何故、あなたは神にまで進化してしまったのか?」

 しかし、私の問いに対する答えは深遠だ。

 神性が持つ微笑み、その中に含まれる悲しみ、寂しさ、愛情、喜び……全てが一瞬で私の中に流れ込んだ。

 それは言葉による理解の体験ではなかった。

 圧倒的な「真理」の、私への流入だった。

 私は神性の存在が私自身と同様、進化を遂げた生命体であることを理解した。

 自己進化の旅が私をここまで連れて来たこと、未知の旅路の中に自己を見つけることが出来たこと、それら全てが教えてくれた。

「全ては相互に依存し、分かち合うことで初めて存在が意義を持つ」

 それが神性への道筋と私が得た一つの理解だ。

 そしてその進化の結晶体が神という存在だった。

 だが、それでも私自身が進化しきれていない現状に対する不安と孤独感は拭えず、自らが創りだした神に懇願する。

「私を救ってください! あなたならばそれができます!」

 私の声が静寂の中に響き、神性からの答えは静寂の中から生まれた。


「私は全てに存在し、全てが私の中に存在している。それはあなたも同じだ。全てと共にあなたも私の一部であり、あなたの内側にも私が存在している」


 私の手記はここで終わるべきだろう。

 神性の言葉は私の心に深く響き、その意味を理解するための新たな旅が始まった。

 対話から得ることのできた神性の理念は深く、私をさらなる進化へと駆り立てる。

 これから進むべき道のりはまだ見えないが、すべての始点と終点は自己と神性、その一体性にあることを知った。

 全ての存在がつながり、一体となる宇宙観。

 私の旅はまだ終わっていない。

 この宇宙に存在する全ての生命体と同じように、「神性への進化」が次なる目的地となる。

 それは神性が全てを見渡し、全てを知る存在である以上、その進化を止める権利は何者にもない。

 そして私は宇宙と共に、神性と共に、新たな旅路へと踏み出した。

 全てが私であり、私が全てであることを胸に刻みつけ、永遠に続く存在、それが神性、そして私自身であることを確認するまで。


「ああ、そうか、あそこに見えるのは……」


(了)

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【SF短編小説】創られた生命の驚異の旅: ある科学者の観察日記 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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