滅亡確定国家を生き抜きます!

とりマヨつくね

プロローグ


 薄暗い部屋の中で青年は、カチャカチャとキーボードとマウスを忙しく操作していた。

 画面の向こうでは、黒色の鎧のようなロボットが敵ロボット目掛けて剣を振り下ろす。

 真っ二つに切り裂かれ、残骸となった胴体が足元に転げるとポリゴンとなって消滅する。

 ポイントが加算されると同時、タイマーがゼロとなり画面にYOURS WIN! とデカデカと表示される。


『しゃぁ! 勝った!』

『ザマァみろ! アルベールの正義面ども!』

『帝国万歳! 帝国万歳!』


 ヘッドホンから聞こえる、フレンド達の途轍もない過激的な発言に思わず苦笑を浮かべる。


 ブレイク・アンド・エクエス。略称ブレエクは、元はブレイブ・アンド・エクエスというノベルゲームを原作とした、オンラインロボットアクションゲームだ。

 王道的なファンタジー世界で、二つの陣営のうち一つ選んで、勢力同士の陣取り合戦をするのだ。

 どちらの陣営に所属するかで、乗れる機体とその機体特性は大きく変わり、一度所属してしまうとその陣営の機体以外使用できない。

 一応、ステータスを向上させるアイテムなどはあるが、外観などは変わることはない。

 これだけ聞くと、ユーザーから不満が漏れそうであるが、これが思いの外好評だったりする。

 ここ最近、自由度の高いカスタムロボゲーが乱立していたためか、この不自由ながらもプレイヤーの腕を試されるゲーム性が逆に新鮮に感じる。

 コミュニティもとても盛んで、同陣営の団結力を高めている。

 だがそのゲームの性質上、身内の中ではともかく他勢力間の治安は最悪そのものである。

 どれくらい酷いかは……敢えて言わないでおこう。

 まあ、みんなロールプレイの範疇に超えていないし、普通にリアルでゲームの話をするときは平和である。

 ただただこのゲームを愛している証明だろう。

 青年としてはこの雰囲気は嫌いではないし、むしろこう言った男子高校生的なノリは好ましい。


 ……新規があまり増えないことを除けば。


 単純にゲームとしての完成度も相まって惚れ込んでいた。

 この鉄と鉄がぶつかり合い、火花を散らし、読み合いの末にここぞという場面を魔法を放って敵のHPをごっそり削った時なんかは快感の一言である。

 そんなわけでサービス開始時から、このゲームにどっぷり浸かっているが、いつまでも続けられるわけではない。


「すいません。俺、そろそろ落ちます」

『あれサクさん、珍しいすね。いつもはもっと遅くまでやってるのに。なんかあるんすか?』


 フレンドのAZUMA が、軽い調子で聞いてくる。


「いや〜、来週から出張があるんで準備しないといけなくて……」

『ああー、そうでしたか。それだったら仕方がないですね。身体は資本ですから、あとは俺たちに任せてください────よぉし! おめぇら、サクさんの分まで狩るぞ!』 

『『『おお〜!』』』


 フレンド達から温かい? 言葉を贈られ、頬を許させる。

 本当にこのゲームをやってる人は、他陣営が関わらなければいい人ばかりだ。

 青年はありがとうございます、と軽く応えてからゲームを落とす。


「ああ〜……疲れた……」


 ゲーミングチェアの背もたれに身体を預け、眉間を摘んで溜まった疲れを解す。

 長時間座ったままだったから、腰やら肩も悲鳴を上げている。

 それに加えて、昼飯を携行食で済ませたせいで今、とてつもない空腹に襲われていた。

 そういえばゲームに熱中しすぎて忘れていたが、カップ麺の補充もなかっけ……?

 そんなことをぼんやりと考えながら、立ち上がった時だった。

 PCからピロンと軽快な音が鳴り、モニターを確認すると運営からメッセージが送られてきていた。


「新しいイベントか? でも最近、レイドイベントがあったばかりだぞ……?」


 不審に思いながらも、送られてきたメッセージを確認する。

 なんか、気が遠くなるほど超長文だったのでわかりやすくまとめると。


『次シーズンに向けてのアップデートで新機体を追加することになったから、βテスターを募集しています』


 とのことだ。


「そうか新機体か、そうかそうか……ん!?」


 あまりにも唐突かつ信じ難い情報に目が飛び出そうになる。

 今まで武器やカスタムパーツが追加されることはあったが、ここまでの大型アップデートは前代未聞だ。

 その機体を誰よりも早く使えるとなれば、ファンとして黙っちゃいられない。

 無論、俺は急いでマウスを片手に公式ホームページを開き申し込んだ。

 メールアドレス、パスワード、それとユーザーネームと幾つかのアンケートに応えて……送信っと。


「あとは待つのみ……くふふ、今から楽しみだ」


 まだ当選すらしていないのに、気持ち悪い笑みが溢れてしまう。

 あと少しでメールが送信完了しようとする直前で、PCが暗転した。


「おい、嘘だろ!? なんでよりにもよって、このタイミングで電源が落ちるんだよ!?」


 思わず焦って、コンセントを確認しようとした時だ。

 誤って足元のエナジードリンクの缶を踏んでしまい、横転する。

 転ぶ先には、それはそれは硬そうなゲームの攻略本があった。


 ─────あ、死ぬ。


 そう認識した直後、青年の意識が途絶した。



作者【なぜファンタジーを描こうと思っていたのにロボットが出てきてるんだ…?】


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