第3話#1世界制服(ブラック・カラー)その3

結局の所、味方の増殖に4日間を使っても警察や自衛隊の半数も手に入れることはできなかった。俺の目算は完全に破綻したわけだ。こんな数ではいかなる兵器を使っても3日で1400万人は殺せない。というか俺はこの1400万人という数の大きさを、実際の所全く分かっていなかったのだ。


物量作戦だなんて言っていた自分が恥ずかしくなる。1400万なんていう大軍勢にたった数万人の手勢で数の勝負なんて。1日200万人というのも軽く考えすぎだ。現代兵器で市街地に隠れる市民を200万人なんて殺せるわけがない。東京の広さと建物の多さをなめすぎていた。


俺は焦った。まずい。本当まずい。このままじゃ本当に地獄行きだ。夢で見たあの地獄を思い出して俺は吐きそうになる。余裕しゃくしゃくで感傷たっぷりに両親を射殺している暇があったらがむしゃらにでも殺し始めればよかった。そうすれば計画の杜撰さに少しでも早く気づけただろうに。貴重な時間を無駄にせずに済んだろうに。今更計画を立てなおす時間なんかない。かと良いってこのまま行動を続けても目標は絶対に達成できない。


寝泊りをしているホテルで俺は頭を抱えていた。あと72時間であの地獄の苦しみが現実になる。泣きそうになりながら俺は考える。何か手立てはないか、時間も人でもかからない一手は・・・・。


その日の午後、俺は自衛隊を通じて米軍に接触した。目指すは米国大統領あるいは核ミサイルの発射スイッチの前に座っている奴だ。いろいろ考えたがそれしかない。

地球上最大火力は何をどう考えても核爆弾だ。それを複数投下すればほぼ確実に東京都内の全生物は死滅する。いやほぼ確実というのは俺の希望だ。強がりだ。悔しいが確実ではない。広島という前例を見ても死傷者は人口全体の半分程度で、その内一次被害による犠牲者はさらに半数以下になる。多くは放射能や火傷の後遺症でしばらくしてから死亡した者だ。


これは決して核の威力を否定するものではない。核兵器の効果が絶大であることは疑いようがない事実だ。たった一発で国の主要都市の人口を半分にしてしまう爆弾なんて、どう考えてもイカレてる。しかしそれでも半分は生き残る。つい忘れてしまいがちだが、本来人間はそれほどしぶとい生き物だというだけの話だ。


場所は米軍横田基地、自衛隊車両に乗って侵入。ここまで来たらもうなりふり構ってられない。警備兵だろうが事務係だろうが片っ端から支配下に置いていきながら基地中枢へ侵攻を進める。正直言って具体的なプランなんかないから、とにかく早くとにかく手当たり次第に味方を増やしまくるしかない。その内偶然階級の高い軍人を引き当てたから、そいつを通じて核搭載の潜水艦とか大統領補佐官とかにたどり着けないかと試行錯誤をしている途中、俺は背後から撃たれた。


最初は丸太か何かでどつかれたのかと思った。突然の衝撃と轟音にただただびっくりしただけだった。前方に吹っ飛んだ体を起こして後ろを見てそれが銃だと気づいた。そのあと体を伝う生暖かい感触が自分の血だと気づいて初めて自分が撃たれた事実を知った。


信じられなかった。スキルを疑ったことがなかったから味方の裏切りなんて思考の外だった。というか考える必要なんかなかったはずだろ。あの夢の中の神様は絶対だ。身をもって体感したあの地獄がそれを裏付けている以上、このスキルを疑いようがなかった。いや、それともあの神様は案外適当で、たまにエラーが出たりするようなスキルを俺に渡したのだろうか。それとも俺の注意力が散漫で、まだ支配下に置いていない兵士を身近においてしまったのだろうか。いや、それはない。銃を構えているあの兵士には見覚えがある。顔を見てしっかりと命令を下した人間だ。そもそもあいつがスキルの支配下に居なかったとして、しかしスキルのことを知っていたわけはないだろう。だとしたら、自分よりはるかに上の階級の士官たちに囲まれる俺の背中を自動小銃で銃撃するなんてことはしない。


そうだ。なぜを俺を撃ったのか。大事なのは、一番分からないのはこの部分だ。俺が犯した犯罪は今の所、尊属殺人だけだ。誰かに殺されるいわれは今の所全くない。

よしんばあったとしても、米軍基地の一兵士に背中から撃ち抜かれるのは自然とは言えない。こいつは誰だ。こいつは何なんだ。こいつは一体何者なんだ。


猛烈な痛みと眠気が頭に響いて意識が遠のいていく。俺を撃った兵士はどこかへ走り去っていった。周りの軍人たちは立ち往生している。スキルによる統制が切れかけて混乱しているのだろうか。もうそんなことを考えるのも面倒なくらい体も頭も重くなってきた。考えられるのは流れる血の暖かさと、これから迎える地獄の苦しみのことだけだった。誤算だらけだ。全く。やってられない。どうすれば試練とやらをやり遂げられただろう。草の根作業で虐殺だなんて考えなければ、もっといいとこまで家けたのではないか。


もしもう一度できるなら、どんなスキルを選べばよかっただろう。最後に考えることがこんな事だなんて、なんか悔しい。それだけの人生だったわけだ。ちくしょう。












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急募、1週間で東京を滅ぼす異能力。求ム 鈴井宗 @sou-suzui

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