第26話 体力テスト無双
俺は自分のスタートラインに立つ。
今女子側の測定は完全に止まっており、ほぼ全ての女子が此方を見ていた。
俺の横にいる高木を。
その弊害として……。
「……走りたくなさ過ぎるんだけど」
「マジでそれな……どうせ女子達に高木と比較されて馬鹿にされんだろ?」
「ああ。そして最後は『やっぱり高木君は凄い!』で終わるんだ」
「俺達は所詮……高木の踏み台ってわけか」
俺以外の走るメンバーが、もう地獄の様な顔をしている。
ただ、全員言っている事が1ミリも間違っていないが故に反論の余地もないのだが。
いつもなら、俺も其方側だっただろう。
だが俺には———【魔力】があるのだ!
「位置について。よーい———」
体育教師が言う。
俺は即座にオーラが出ない程度の身体強化を身体に施す。
全身を普段よりも少し軽い全能感が支配してたせいか気持ちが昂り、思わず言ってしまった。
「ごめんな、高木。お前すらも踏み台にするわ」
「えっ?」
「———スタート!!」
合図と同時に全力で地面を蹴る。
俺の身体は普段ほどではないにしろ、一気に前へと進み、一回駆ける毎にぐんぐんと高木との距離を離した。
しかし、十メートル付近での高木との差は、まだ一メートル。
俺は此処から更に加速して、二十メートル付近では四メートル、三十メートル付近では五メートル、四〇メートル付近では八メートルと圧倒的な差を生んだ。
チラッと後方を見れば、高木が珍しく焦った様な表情で必死に俺を追いかけていた。
くくっ、普段から一位だったから焦りに焦ってますなぁ!
ま、絶対にもう抜かされませんけど!
俺は再び前を向いて最後まで全力で走り切り……。
「あ、暁月……よ、四.二秒……」
多分男子の誰もが一度は夢に見る世界記録更新する……といったことをマジでやり遂げた様な気がする。
これには男子も女子も教師でさえも声も出ないと言った様子で呆然としていた。
高木なんかは「う、嘘だ……この僕が負けるなんて……」と本気で狼狽えている様子である。
や、やべ……ちょー気持ちいいんだが!
あの高木がめっちゃ悔しがっているんですけど!
あー、めっちゃスッキリするわー。
そんな固まった空気の中で1人喜んでいると……俺以外に1人だけ普通な奴が居た。
「……遅い」
「何と手厳しい奴だなおい」
真白がいつの間にか俺の隣に居て、あろうことかこのタイムで遅いとか宣い出した。
ただ、流石に周りに配慮したのか小さな声で、だが。
「……この前は、もっと速かった」
「あの時は化け物達の前だったからね? 今は一般人の前だからね?」
何て言い合っていると———遂に思考が動き出したらしい。
「か、勝った……? あ、あの難攻不落、無敵無敗の高木に……?」
「う、嘘じゃないよな……?」
「よ———」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「よっしゃぁああああああああああああ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
男達は俺を称賛する様な大歓声を。
「う、嘘……た、高木君が、あ、あんな大してカッコ良くもない帰宅部に……」
「と、と言うか……あ、暁月って誰よ……」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「い、嫌ァァァァァァァァァァァァァ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
女達は何か物凄く失礼なことを言った後に悲鳴を上げ始めた。
「……うるさい」
「同か———うおっ!? な、何すんだお前ら!?」
突然俺は大量の男子達に持ち上げられては胴上げをされる。
流石にこんな経験は今まで一度もしたことのないので、勿論慌てた。
しかし……。
「よ、良くやった暁月……!!」
「お前は俺ら男の英雄だ!!」
「良く、高木以外の男子が高木の踏み台ではないと証明してくれた……!!」
「あの女子達の驚愕の顔を見たか!? マジであり得ないとか思ってた顔だったぞ!?」
「クソ失礼だなアイツら!?」
「もう暁月しか勝たん!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「暁月最高!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
皆んなが涙を流しながら称賛してくるもんだから、何か俺も一緒に涙出て来た。
「お、お前ら……よし! 俺、暁月快斗は此処に宣言する!! これから全種目、高木に圧勝してみせると!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「ぉおおお!!」」」」」」」」」」」」」」」
俺は胴上げされながら拳を振り上げる。
「打倒———高木じゃあああああ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「う、うぉおおおおおおお!! 良いぞ暁月ぃいいいいいいい!!」」」」」」」」」」」」」」」
多分、人生で一番楽しかった。
横で真白が物凄く呆れた様に俺達を見ていたけど。
現代世界で【魔力】を手に入れたら、ファンタジーに巻き込まれるらしい あおぞら@書籍9月3日発売 @Aozora-31
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