第25話 遂にやって来た体力テスト

「ふっ、遂にこの時が来た……!」

「……何で笑ってる?」


 困惑の表情で首を傾げる真白。

 まぁ彼女はついこの前この学校にやって来たので知らなくても仕方ない。

 ならば、俺が教えてあげよう。


「今日は———待ちに待った体力テストの日なんだ……!!」


 眠い眠い数学だった1時間目が終わり、体操服に着替えた俺達は、体力テストを受けるべくグラウンドに出ていた。

 そして体育にしては珍しく、男女分からずにやるので、俺の隣には体操服を着た真白が立っている。

 真白は、俺の言葉に更に困惑を強くして何度も瞬きをした。


「……そんなにはしゃぐ意味が分からない」

「まぁ女子は……特に運動が嫌いな人あんまり好きじゃ無いだろうよ。だがな……男子はこう言ったスコアが出るモノは意外と好きな奴が多いんだよ」


 まぁ俺はただ、身体強化とか言うめちゃくちゃズル技で世界記録的なのを出してみたいだけだが。

 そしてあのイケメン万能野郎高木に圧勝してやるのだ。

 それに身体強化って、倍率下げたら青白いオーラも消えてバレなくなるってことに気づいたからには使わないと(使命)。


「……よく分からないけど、柚月が楽しみにしてるのだけは分かった」


 まるで理解するのを諦めたとでも言いたげな表情で、やれやれとため息を吐く真白。

 思わずぶっ飛ばしてやろうかと思ったけど何とか抑えた。


「———それじゃあ今日は体力テストを始めるぞー! 男子は五十メートル走、女子はハンドボール投げだ!」


 俺が真白とやり取りをしていると、体育の先生(ツルピカの細マッチョ)が号令をかけた。

 どうやら体力テストでも結局男女は分かれて測定を行うらしい。


 まぁどうせ、女子達は高木の番の時だけ皆んなで揃えたかの様に測定を中断して見るんだろうけど。

 現時点で高木にメロメロな奴らばっかりだからな。


「……羨ましい……!!」

「ケッ、何だよ高木だけ……」

「いつもはいい奴で好きだけど、こう言う時は死ぬほど憎いぜ……」

「よし、今年こそは打倒高木だ! やるぞぉーー!!」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」

「……何で、柚月も参戦してる?」

「そんなの高木が羨ましいからに決まってんだろ……!!」


 俺がクラスの男子達と共に右腕を挙げて気合を入れていると、未だ女子の方に行ってなかったらしい真白がジト目で言って来たので全男子の気持ちを代弁する。

 すると、周りに男子達が集まって来ては「よく言った」や「お前ならわかると信じていたぞ……!」などと、お褒めの言葉が寄せられた。

 そんな俺達の様子を間近で見ていた真白は呆れた様に鼻で笑った。


「……馬鹿みたい」

「「「「「ば、馬鹿じゃねぇし!」」」」」


 俺達は速攻で反論した。










 五十メートル走。

 小学生時代はこの五十メートル走とリレーさえ速ければモテる程注目され、尚且つ最も顕著に身体能力の差を見ることが出来る種目。

 勿論、身体能力が高くても足はそこまで速くないと言う人もいるが……そうは言えど高が知れている。


 そして現在。

 目の前では———。


「高木〜〜……五.九秒!!」

「ふぅ……自己ベスト、ギリギリ届かなかったな……」

「くそッ……この日のために血の滲むような訓練を積んで来たと言うのに……!!」

「俺は……ダメだったのか……?」

「まぁ、だよな。高木に勝てるわけないもんな」

「……あー、ミスったけどさ……六.八秒で最下位ってどゆこと?」


 高木が二位に〇.五秒ほどの差をつけてゴールしていた。

 項垂れる男子に……。


「うわぁ……高木くんめっちゃ速いじゃん」

「ヤバすぎん? 他の男子って全員陸上部でしょ?」

「それな! 走る専門の部活の奴がサッカー部に負けるの少しダサいねー」

「いや、絶対高木君が速いだけだから!」


 まぁそれはそれは高木にメロメロとなった女子達が黄色い声を上げていた。

 正直物凄く羨ましい。

 ほら、そう思っているのは俺だけじゃないらしく、男子全員が物凄い視線を高木に向けている。


 ただ、次は俺の番。

 気持ちを切り替えて———。


「———もう一度走って良いですか?」

「お? 良いぞ。丁度この列は空きが1つあったからな」

「ありがとうございます」


 ———完全勝利を目指すことを決めた。

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