第24話 

 昨日はごめんなさい。

 これから一日一話で行きます。

————————————————————————


「———ヤバい……十戦全敗、もう心が折れそうです」

「十年間前線で戦ってきた私がまだ発現して一ヶ月にも満たない柚月君に負けた時こそヤバいわよ」


 仰向けでぶっ倒れる俺の顔を覗き込むように苦笑する麗華先輩。

 俺はもう動けないほどに疲労感があるというのに、先輩は未だ余裕そうだ。


「凄いですね、先輩……マジで勝てるビジョンが浮かびません」

「私としては、この短期間であれほど私に食らいついて来る方が凄いわよ」

「ふっ、まぁ限界超えてるんで。余裕っすよ」

「ふふっ、そこは素直に『ありがとう』でいいのよ」


 笑みを溢して俺の頭を撫でる先輩は、聖母のようだった。

 あまりの気持ちよさに眠くなった俺だったが……真白がジト目で俺達を見る。


「……私もいる」

「勿論知ってる。でもずっと居たのか? 暇だったろ」

「……面白い。アニメ見てるみたい」


 心なしか瞳をキラキラさせて俺達を見る真白に『記憶失う前の貴方はこれよりもっとアニメっぽいことしてましたよ』なんて言ったらどうなるのだろうか。

 少し気になるところではある。

 まあそのせいで記憶が蘇って殺されそうになるなんて冗談じゃないが。


「……ところで、二人は何か変わった」

「まさかの疑問じゃなくて断定なのね。てか、そこまで変わったか?」

「……何か、銀色の女が近い」

「あら、銀色の女ってどう考えても私のことよね? へぇ、いい度胸じゃない。はっ倒してあげるわ」

「だ、駄目ですよ、先輩。ここは華麗にスルーしましょう」


 俺は睨み合う二人の間に入り、怒りで眉が痙攣している先輩を宥める。

 同時に真白にも苦言を呈す。


「真白、先輩の名前教えたろ? 一体どうしたんだよ急に」

「……何か、イラッときた」

「何で!?」

「……教えない」


 何故か不機嫌そうに、ふいっと顔を背ける真白。


 一体何で……いや、確かに目の前でイチャコラされてたら普通に不機嫌になるわ。

 それが俺の友達ともなれば、ドロップキックも辞さない覚悟である。

 

「そうか……俺が先輩とイチャコラしてたのがイラッときたんだな。俺も良く分かるよ、その気持ち」

「……それで、二人はどんな関係? 恋人?」

「えっと……」


 そう聞かれ、思わず口籠る。

 対外的には恋人ということになるが、実際はただ恋人のフリとしているだけ。

 お互いに友達や仲間としての好意はあれど、異性としての好意はないのが現状だ。

 

「———疑似恋人よ」

「……??」

「あ、言っちゃうんですね」

「だって別に真白さんに隠す意味は無いもの。誰にも言いふらすことはやめて欲しいけれどね」

「……言わない。その代わり経緯をプリーズ」


 真白の要求に、先輩が事の経緯を最初から話し始める。

 その間、真白はずっと静かに聞いていた。

 

「———と、こんな感じね」

「……柚月」

「うん、全部事実だぞ。寧ろ俺も今の話以上のことは知らん」


 一応先輩が嘘を付いていないか確認したかったらしい。

 そして俺の言葉にやっと信じた様だ。

 何とか事態が収まったと、ホッと胸を撫で下ろす俺の横で真白が先輩に尋ねた。

 

「……疑似なら、柚月と遊んで良い?」

「ええ、友達としての範囲内ならね。ただ、過度なボディータッチとかは疑われるから止めてほしいわね」

「……分かった。じゃあこれからは抱き着くのはやめる」

「!?」


 真白の突然の暴露に、先輩が目を見開いて俺と真白の間で何度も視線を彷徨わせる。

 俺はそんな先輩の奇妙な動きを見ながら言った。


「おい、あんまり先輩を揶揄うなよ。そもそも抱き着いたことなんて一度もないだろ」

「なっ……真白さん!?」

「……ふっ、騙される方が悪い」

「……っ、あ、貴方ね……ッ」


 あ、これはもう俺には止められないぞー。

 

 これから二人の口喧嘩が始まりそうな雰囲気をいち早く察知すると同時に仲裁するのを諦める。

 俺は疲労による倦怠感に顔を歪めながらも即座に立ち上がり———。


「あとはお二人でどうぞ~~」

「ま、待ちなさい!!」

「……行っちゃ駄目」

「ごめんなさい、今から用事があるんでよねー」


 二人の静止の声を無視して、一目散に部屋から逃げ出した。

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