第23話 戦闘訓練

「……上機嫌ですね、麗華先輩」

「ふふっ、そんなの当たり前よ。人生初の彼氏(仮)なんだもの。私、一度でいいから普通の恋人みたいなことをしてみたかったの」


 楽しそうに笑みを溢す麗華先輩に、俺は言った。



「———戦闘訓練が恋人のすることなんですかね?」



 そう、今俺達は前回朱音さんと手合わせをした場所で戦闘訓練をしていた。

 俺も先輩も剣を持っている。


「勿論よ! そもそも組織のカップルって大体こんな感じよ?」


 とんだ異常集団じゃねぇか。

 頭ぶっ飛んでるって。


 さも常識のように語る先輩に、俺は思わず苦笑いが漏れる。

 そんな俺を見て不思議そうに首を傾げる先輩。

 ただ、聞いた話によると、先輩は小さい頃から組織に所属しているようなので仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。


「……柚月、がんば」

「お前はやらないからって他人事のように……!」


 俺は透明な障壁に囲まれた部屋からお菓子を食べながら声援を上げる真白を睨む。

 

「……だって、他人事」

「確かに」

「———始めるわよ?」


 真白と話していた俺を、強烈な殺気が襲う。

 その出元を見ると……左に炎、右に氷を纏った剣を構えた麗華先輩の姿。

 その表情はにこやかだが、目が笑っていない。


「えっと……そんな本気でやるもんなんですかね?」

「当たり前じゃない。逆にダラダラやっても意味ないわ」


 ……まぁ麗華先輩が言うならそうなのだろう。

 

 俺はそう割り切って、支給された剣を構える。

 ズシッとした普段感じない重さ。

 こんなモノを何もなしで振り回す昔の騎士とかは本当に凄い。


「先輩、確認ですけど……、何でもアリなんですよね?」


 先程、麗華先輩より『その場から半径二メートル以内でしか動かない』『剣以外の攻撃方法を使わない』と言ったハンデを貰ったのだ。

 そうでもしないと先輩がある程度本気を出せないから、とのことらしい。


「ええ、何してもいいわよ」


 それなら、剣は先程持ち方や軽く振り方を習ったが……正直下手くそなので頼って戦わない方がいいだろう。

 まぁ武術も全然素人なのだが。


「じゃあ———行きます!!」


 俺は全身の身体能力を一気に引き上げ、剣を振りかぶりながら接近。

 時速百五十はありそうな速度のまま、全力で剣を振り下ろす。

 

 ———ガキッ!!


「うーん……初めてにしては上出来ね。まだまだ力が分散しているけれど」

「えぇ……」


 速度と体重の乗った俺の全力の剣撃を、麗華先輩は片手で受け止めた。

 更に冷静に分析までする余裕があるときた。


 ほんと最高幹部くらいの強者は末恐ろしいな……。


 身震いを抑え込み、即座に離れる。

 正直攻撃が通るビジョンが一ミリも思い浮かばない。


 真白の時はアイツが戦闘タイプじゃなかったのと、戦闘をするのではなく、あくまで生き残るのが最優先だったので何とかなったが……今回は純粋に戦闘能力を向上させるのが目的。

 あんなズル技なんて使っても意味がない。


「ま、必死に食らいついてみますか」


 再び地面を蹴って接近。

 今度は斜め下からの振り上げを繰り出す。

 案の定直ぐに対応され防がれそうになるが……。


「———【爆発して】———」

「っ」


 それと同時に剣に流していた魔力を爆発させ、一気に剣を加速させてタイミングを崩させる。

 しかし麗華先輩は一瞬驚いた様に目を見開いたものの、そのまま剣を傾けていなしてしまった。


「うわっ!? ———っ!?」

「軸がブレブレね。あと、動きが大振りすぎよ」

「初心者に随分と手厳しいですね……ッ!!」


 そう言いながらも、的確過ぎて何も言い返せないんだが。

 

「———お手本よ。言ってもまだ私も未熟なのだけれど」


 そう言った麗華先輩が、何の予兆も無しに剣を振るった。

 鋭くて疾い斬撃が一瞬にして俺の剣を跳ね除けると、もう一振り。

 俺は咄嗟に剣を手放して自身に念力を使って無理やり避けた。

 

「あ、危ねぇ……」


 俺は全身から噴き出す冷や汗の不快感に顔を歪めながら、激しく鼓動を刻む心臓を押さえた。


 麗華先輩の剣は———恐ろしく疾くて、正確だ。

 それでいて、俺が簡単に吹き飛ばされてしまうほど一撃が重い。

 

「こないのかしら? 私は此処から動けないのだけれど」

「ははっ、安心して下さい。勿論行きますよ———ッ!!」


 俺は瞳と脳を限界まで強化し、一気に駆け出す。

 加速、からの袈裟斬り。

 ゴブリンのリーダー級なら回避も防御もされることなく一撃で仕留められる俺の全力を———。


「———いい剣筋ね。まぁこれくらいかしら?」

「ぐっ……」


 麗華先輩はあっさりと受け止めた。

 更にもう片方の剣が俺に迫る。

 どうやら俺の限界を悟ったらしい先輩が決めに掛かったようだ。

 


 だが、この時を待っていた。




 俺は剣を握る手に力を込めると、腕をバネに上空に飛び上がる。

 麗華先輩は驚いた様に目を見開いて上空を見上げて俺を見据えた。

 そんな先輩を他所に、尚を上昇を続ける俺は、足場用の簡易的な障壁を作って半回転して踏み込むと、一気に下降。

 

「これで———どうだッッ!!」


 重力に従って落ちる中、俺は全力で剣を振り抜いた。

  

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