第22話 返答

「———はぁ……もう疲れた……」

「……勉強、難しい」

「よく頑張ったわね、よしよし」


 俺も真白も疲れ果てていた。


 俺は度重なる真白への質問責めに。

 真白は初めての学校ということで圧倒的理解不能な授業に。


 生徒会室の机に頭を預ける俺達を、麗華先輩が優しい手付きで撫でてくれる。

 

 あー、やばい……マジでバブみがエグいんだが。

 普通に男子高校生としての尊厳が危うい。


「ところで先輩。今日は何で俺達を呼んだんですか?」

「私が呼んだのは柚月君だけよ」


 撫でるのをやめ、生徒会長用の机で何かの書類を物凄い速さで捌く麗華先輩の言葉に、俺は反射的に真白を見た。


「じゃあ何で付いて来たん?」

「……柚月がいないと、面白くない」

「いや俺がいても面白くないから」


 俺の返しに、真白は机に額をつけながらブンブン首を振る。

 その振動が俺の頭にもダイレクトに直撃。


「お、おい、酔うからやめろよ……あとおでこがバウンドして痛いんだけど」

「……けっ」


 真白は何かよく分からない声を出して動きを止める。

 しかしお陰でやっと揺れが治ったので、再び机に頭を乗せた。


「あの……暗お———真白さん。悪いのだけれど先に組織のアジトに戻っていてくれるかしら?」


 麗華先輩が書類を捌きながら言う。

 そんな先輩の言葉に真白は首を横に振る。


「……嫌。帰らない」

「少しだけよ」

「……い・や・だ」


 べーッと舌を出して嫌がる真白。

 その姿は非常にウザく、先輩も一瞬ピクッと眉を動かした。

 しかし直ぐに立ち上がると……真白にボソッと何かを呟く。

 同時に真白が何故か焦ったように瞳を揺らした。


 ……何を話してんだろ?


 俺が二人のこしょこしょ話を眺めて首を傾げていると、真白が無言で出て行った。


「何を話したんですか?」

「ん? いえ、少しね……何でもないわ」


 一瞬何か含みのある間があったが、直ぐに書類に視線を戻していた。

 その雰囲気からこれ以上この話題は避けた方がいいと感じ、俺は話題を変える。


「それで先輩、俺に何の用事があるんですか?」


 俺が尋ねると、先輩はチラッと俺を見る。

 そして書類に目を落としながら言った。


「———柚月君、恋人のフリの件についてなのだけれど……」

「あ、俺でよければ受けます」

「そうよね、やっぱり受けないわよ———はい?」


 麗華先輩が手を止め、驚いた様に書類から俺に視線を移した。

 今まで散々断って来たので、俺の返答が相当衝撃的だった様だ。


「そ、それは……嘘じゃないわよね?」

「勿論ですよ。てか、気付いたんです。俺は自力で恋人など作れないと」


 そう、俺はこの力がある限り彼女なんか絶対に作れないことに気が付いたのだ。

 それこそ同じ異能力者で尚且つ、俺より圧倒的に強い女性じゃないと。


 あと、俺の狙われる確率的に、急いで彼女を作らないと、恋人いない歴=年齢と童貞という不名誉な称号がダブルで付いてしまうのだ。

 まぁ今も何方も付いているのだが。


「でも、先輩なら俺より圧倒的に強いし、少し天然ですけど優しいし、美人ですし……つまり悪いところないんですよね」

「そ、そうかしら……っ?」


 少し上擦った声を上げる先輩。

 どうやらストレートに褒められて照れているようである。


 案外可愛いらしいところもあるんだなぁ……と思いながら、俺は追撃とばかりに大きく頷いた。


「そうですよ。大体先輩はこの学校でぶっち切りの美女で性格も良いって有名ですよ」

「それは知ってるわ。でも貴方は……柚月君どう思ってるのかしら?」


 少し恥ずかしそうに目を逸らしながら訊いてくる先輩に、不覚ながら非常にときめいた自分がいる。


 ダメだろ俺。

 偽物の恋人にガチ恋したらアウトだっつーの。


「まあ端的に言えば———心を鉄壁にしないと惚れちゃいそうなくらい魅力的ですかね」

「……っ、そ、そう……」


 麗華先輩は恥ずかしそうに耳まで顔を真っ赤にして、パタパタと手で仰ぐ。

 

「それで……恋人のフリって何するんですか?」

「……あとで考えておくわ」


 どうやら考えてなかったらしい。

 目の前の彼女は、完璧と呼ばれていてもやっぱり同じ人間だと言うことか。

 まぁそう言うギャップが、俺に恋心が芽吹くのを防ぐ際の鬼門なのだが。



「柚月君……えっと、その……よろしくね」



 麗華先輩は、未だ少し上気したまま、ふわっと嬉しそうな笑みを浮かべた。


 

 ほんと……奇妙なことも起きるもんだな。

 

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