第21話 転校生
「———真白お前……高校生だったのか……?」
「……そう、らしい。自分のことが思い出せないから分からない。特に気にしてないけど」
俺の驚愕の声に、真白はコクリと頷いた。
次の日、俺は真白との約束通り学校に行く前に組織のアジトに寄った。
するとそこには、俺と同じ制服を着た真白の姿があり、甲斐甲斐しく組織の女性陣にお世話をされていた。
首長によると、組織の特殊な機械で彼女のデータを調べたらしい。
それで本名や年齢、親が居ないことや学校に通っていないことも分かったのだと言う。
しかし本名だけは何故か聞きたがらなかったようだ。
「何で名前聞かなかったんだ?」
「……私の名前は、真白だから」
だから、聞く必要なない———と真白はハッキリと断言した。
そ、そういうもんなのか……?
てか想定以上に気に入ってくれてんだな、名前。
付けた身である俺からすれば自分の本当の名前の方が良い気がするが……本人が『いい』と言うのだからそれ以上訊くことは止め、話を変えるように麗華先輩に話し掛ける。
「ところで……麗華先輩、学校の方はどうなんですか?」
「バッチリよ。既に昨日の戦闘時の被害は完全に消えてるわ」
「ほぇ……流石ですねぇー」
思わず感嘆の声が漏れる。
ボロボロだった校舎やグラウンド、果てには燃え尽きた色々なモノを僅か一日で完全に修繕するなど、幾ら異能力者と言えど相当骨が折れるはずだ。
俺は手伝っていないので何とも言えないが、物凄いことだけは分かる。
「そうね、彼等には感謝してるわ」
「まぁ八割は先輩が壊しましたしね」
「ん」
「しょ、しょうがなかったのよ……逆にあれ程の強者との戦いであの程度の被害しか出していない私を褒めてほしいくらいだわ」
「「……えー?」」
「ちょっと貴方達!?」
そんな俺達のやり取りを見て、
「……お嬢様にも遂に心許せるお友達が……私、感動の極みです……!」
と運転しながら大柄な男———浅井さんは号泣していた。
「———-えー、今日は転校生を紹介する」
先生の言葉にクラスが湧く。
対する俺の気持ちはダウンする。
いや……分かってたよ。
どうせそうなんだろうなって。
「なぁ、どんな奴が来るかな!?」
「美少女か!? 漫画みたいに美少女が転校してくるか!?」
「えー、どうせなら私はイケメンが良いなぁ……」
「それなー。このクラスの男子、あんまりイケメンじゃないしねー」
「はぁあ!? お、女子達やんのか!? お前らだって全員大して美人じゃねーよ!!」
「そうだそうだ!!」
「は? 言ったわね、クソ男子!」
「は? お前らから言ったんですけどねぇ?」
既に転校生が誰か薄々気が付いている俺からすれば。
この醜い勝負に勝ちを付けるとしたら、男子の勝ちである。
ただ、こいつ等本当に下らないことで怒るな———。
「———大体アンタらみたいなブスは可愛い子が来ても相手にされないわよ!」
「いーや、そんなこと無いね。だってこっちには———全然カッコよくないのに麗華先輩に気に入られた柚月大先生が居るんだからな!」
「た、確かに……」
こいつ等全員ぶっ飛ばしてやろうか?
まさかのとばっちりを受けてキレそうになる。
しかし、そんな五月蝿い教室に扉が開く音が響くと、全員が話をやめた。
全員が扉の方に顔を向ける。
白髪を靡かせ、真白が入って来る。
誰もが目を奪われたようにぼーっと真白を見ている。
まるで異国のお姫様(見た目のみ)のような真白の容姿に教室がシンと静まり返った。
「……真白です。よろしく、です」
真白は短く言い終える。
あまりに言葉数の少ない真白に、クラスメイト達は困惑を顔に宿していた。
アイツ……せめてもう少しフレンドリーに挨拶しろよ……。
記憶喪失前はもっとおしゃべりだったはずだぞ……。
俺は顔を押さえながら、先程注意しておけばよかったと後悔する。
ただ、俺やクラスメイト達の反応を特に気にすること無く、真白は先生に指定され、新たに追加された一番後ろの席に座った。
———俺の席の後ろに。
俺はもう詰んだ気がしてならないが、嫌な予感に冷や汗を流しながら、意地で前を向く。
クラスメイト達の視線が彼女に集まる中、後ろからヒシヒシと視線を感じる。
ただ、これ以上俺は面倒なことに巻き込まれたくないため、気付いていないふりをした。
「えー、ま、兎に角彼女が新しくクラスの仲間になるからやさしくしてやってくれよー」
先生はそう締めくくると、別の事を話し始める。
俺の担任は面倒臭がりなので、生徒達を鎮めるのを諦めたのかもしれない。
おーいせんせー、俺以外全く皆んな話聞いてないっすよ。
完全に視線が後ろの真白にしかいってないですよー。
頑張ってください?
「……柚月、席近い」
後ろから真白が話し掛けてくる。
ただ、周りの視線が気になってとてもじゃないが振り向けなかった。
だ、誰か俺を助けて下さいませんか?
今、物凄くピンチです。
魔力は使えません。
「……何で、無視する?」
「…………」
「……ゆ・ず・き」
遂には話し掛けるだけでなく、背中をツンツンしたり、俺の耳を引っ張ったりまでしてくるではないか。
そのせいで、皆んなの視線が痛いくらいに突き刺さる。
……あー、俺の平穏な学校生活、色んな意味で終わったな。
遂に諦めた俺は、緩慢な動きで後ろを向いた。
「……何で、無視した?」
「いや、周りを見てみろ」
「……別に、関係ない」
そう言うと思ったよ。
さっきからそんな感じだったもんな。
「……これから、よろしく」
にひっと口角を上げる真白。
ホント、美少女は少し笑うだけでこんなに可愛いのだからズルい。
「……ああ、よろしく。記憶戻っても、どうか俺を殺さないでくれよ」
俺は吐きそうになったため息を何とか飲み込んで、そう返した。
あの後———クラスメイト全員に問い詰められたのは言うまでもないだろう。
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