第20話 収束と想定外
———俺の交渉が効いたのか、二人は剣を収めて戦いをやめた。
二人の剣は俺が預かっている。
今は麗華先輩が俺の隣に。
剣帝が俺から十五メートル程離れた場所に立っている。
「おい、暗王。お前本当に何してんだ? その年で俺よりボケてんじゃねぇぞ」
後頭部をかきながら怠そうに言う剣帝。
そんな剣帝に俺は衝撃を受けた。
こ、コイツ……この剣帝とかいう男、近くで見ればめちゃくちゃイケメンじゃねぇか。
そう、剣帝が物凄くイケメンだった。
それもそこらの有名アイドルですら裸足で逃げ出しそうな程。
顔立ちは態度とは裏腹に、目や眉はキリッとしており、輪郭はシュッとシャープ。
まさに貴公子を体現した様な姿だ。
……チッ、もうお前は俺の敵だ。
元々敵だけど。
兎に角、断じて俺はお前を許しはしない。
俺が剣帝の見た目に嫉妬していると、持ち上げていた真白が俺の頭をとんとん叩く。
そして剣帝を指差して言った。
「……こいつ、意地悪。お前、何とかして」
「ん? いや、俺に言うなよ。一応真白の仲間だぞ」
そもそも俺に目の前のクソイケメンは倒せません。
「あと、俺の名前は石田柚月な。お前じゃ分からん」
「……柚月、目の前のアイツ、何とかして」
「だから無理」
「…………」
真白が無言で俺の頭を叩いてくる。
しかし幸運なことに、今は身体強化中なので全く痛くない。
そんな俺と真白のやり取りに、剣帝が困惑した様子で眉間に指を当てた。
「はぁ……これはどう言うことだ?」
「簡単に言えば、記憶喪失ですね。原因は剣帝さんと麗華先輩が起こした衝撃波によって吹き飛んだから」
「……あり得ないな。暗王が衝撃波で記憶喪失なんて絶対に無いな」
どうやらあれだけ悪口言ってたくせに、随分と暗王の力は買っているらしい……が。
「いや、だって俺が眠らせてたんですもん」
「……『もん』は、キモい」
「ぐはっ!? き、記憶喪失前と同じこと言わないで……俺のライフはもうゼロ超えてマイナスだから……」
俺が胸を押さえて大ダメージを受けていると、剣帝が鋭い眼光で睨んでくる。
その瞬間、俺の身体が硬直した。
こ、この威圧感は、暗王以上だな……ッ。
ガクガク震える足を押さえ、何とか崩れ落ちない様に体勢を保つ。
しかし、直ぐに麗華先輩が剣帝を睨み付けたことによって威圧感が霧散した。
「はぁ……はぁ……な、何をするんですかね……?」
「……お前、本当にどうやってあの暗王に勝った? 弱過ぎるぞ」
「い、色々と頑張ったんですよ……あと、彼女の性格のお陰です」
全て事実だ。
あの場で闘うことになったのが暗王だったからこそ、今俺はここにいる。
それ以外なら余裕で速攻捕まってた。
ほんとよく勝てたよな、と今更ながらに自分で驚く。
もう神が味方をしてくれたとしか言いようがない。
「……チッ、だからアレほどその舐め腐った性格を治せと言ったんだ……」
剣帝が苦々しく呟く。
そして小さくため息を吐いた。
「……力づくは———」
「許すと思ってるのかしら?」
「———無理か。あー、ターゲットの少年」
「あ、はい———ッ!?!?」
目の前に、剣帝がいる。
その背中には俺が持っていたはずの大剣。
反射的に手元を見る。
「…………ない」
「おう、これは返して貰うぞ。出来れば暗王も回収したかったが……流石に無理か」
剣帝は、真白を奪われない様に護る麗華先輩を見て言った。
対する麗華先輩は、心底悔しそうに顔を歪めている。
……速い、なんてどころじゃない。
見えなかった。
目を特に強化していたにもかかわらず、初動すら見えなかった。
気付けば大剣が盗られていた。
「……瞬間移動?」
真白が呟く。
そんな真白の様子を見た剣帝は……。
「…………用済みだな。異能力を使えない奴は『創世』のメンバーである資格はない。だからお前らが暗王は好きにしろー」
それだけ言って一瞬で姿を消した。
「「…………え?」」
「……よし」
こうして学校で起きた強者二人による襲撃事件は何とか幕を閉じた。
———後始末は迅速に行われた。
剣帝が消えてから僅か数秒で『月光』の組織員が百人以上現れた。
どうやら学校に例の結界の強化バージョン的なモノが設置されていたらしく、組織のメンバーは誰も入れなかったらしい。
それが剣帝が消えて解除されたわけだ。
そこからは、ただ
幸いまだ皆んな眠っていたが、怪我をした人も少なくないのだとか。
そしてそれが終わると俺と麗華先輩と真白の三人は———首長の下に報告しに行った。
「…………これは、驚いたね」
案の定、流石の首長も驚いている。
来る途中で聞いたが、どうやら『創世』の『王』や『帝』の付く二つ名持ちは超危険人物らしい。
その一人一人の力は最高幹部と同等。
組織自体も大きく、世界でも有数の強者が何人も加入している日本で一番大きな反政府組織。
そんな組織の『王』を俺が持ち帰ったのだから、驚くのも無理はないのだと思う。
「まあ、今の真白は異能力使えないんですけどね」
「……全く、覚えてない。不思議な力も使えない」
「そうか……うん。なら、真白さんは一旦僕に預からせてくれないかな?」
そんな首長の言葉に、少し考える素振りを見せた真白は……こくり、と頷いた。
「……一日だけ。明日からは、柚月と一緒」
「え? 俺は実家暮らしだが?」
「……大丈夫、きっと何とかなる」
「ならねぇよ。ほら、俺はもう帰るからな」
真白が眉間に皺を寄せた。
随分と不服な様だが……。
「真白さん、少し耳を貸して」
「…………明日、絶対来て」
首長に一体何を吹き込まれたのか知らないが、やけにあっさりと俺を帰してくれる。
「お、おう……分かった」
俺は、その従順さに些か不思議に思いながらも睡眠欲には勝てず、そのままスルーした。
しかしそれによって後に少し後悔することになるとは———この時の俺は全く予想もしていなかった。
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