第3話「ごめんね、ヘレナ」

「なあんだ! おそろしい魔女なんかいなかったじゃないか。みんな、赤い月にびくびくおびえていただけなんだ。そうだっ! 赤い月の夜『白い森』にあらわれるのは、おそろしい魔女なんかじゃなくて『天使』だって、みんなにおしえてあげよう!そうしたら、みんな、ヘレナのことが大好きになるよっ」


 ボクは、みんなの誤解をとくために、ヘレナのことを話した。


 家に帰ると、おにいちゃんがボクより一足はやくおしごとから帰ってきていた。なんだか、すごくおこっているみたいだった。


「アレクシ……オマエ、『白い森』に行っていたのか?」


 今まで、これほどこわいおにいちゃんの顔は見たことがなかった。ボクはだまって、くびをたてにふった。


「『ヘレナ』のことを、みんなに言いふらしただろうっ?」


 ボクはむかっとした。


「なんだよっ! おにいちゃんは『ヘレナ』のことを、おそろしい魔女なんてわるく言ってたくせにっ!」


 なみだが、ぽたぽたとこぼれた。


「しごとの帰り、『施設』のやつらが『白い森』に入って行くのを見た。『ヘレナ』は、今までより、ずっと、ずっと、やつらにひどい目にあわされるっ」


 おにいちゃんも、なみだをこぼしていた。


「ど、どういうことなの? おにいちゃん『ヘレナ』のことを知っていたの?」

「ああ、あの子は、『白雪病しらゆきびょう』っていう生まれつきの病気なんだ。それで、親からも気味悪がられて、実験施設に売られた。あそこは地獄だ! だれも、ヘレナのことを人間あつかいしてくれない! あの子はもう、一生檻の中に閉じ込められるんだっ!」

「それで、おにいちゃん、なんども、ボクに『白い森』に行くなって……」


 ヘレナによかれと思ってしたボクの軽はずみな行動がヘレナをふたたび地獄へとつき落とした。


「ごめん……ごめんね、ヘレナ。必ず助けに行くからね」


 ボクの瞳が血の色に染まった。


                                     了

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ごめんね、ヘレナ 喜島 塔 @sadaharu1031

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