第2話「白い森」

「ねえ、どこにむかっているんだい?」

「『白い森』にゃ」

「えっ? それは、こまるなあ。ルビー色のお月さまが出ている夜はおそろしい魔女が出るからぜったいに『白い森』に行ってはいけないって、おにいちゃんに、きつく言われているんだ」

「それは、だいじょうぶにゃ。『ヘレナ』はおそろしい魔女なんかじゃにゃい。心やさしい人間の女の子さ。赤い月の夜は、この国では良くないことがおこる前ぶれと信じられていてだれも『白い森』に入ってこないから、そのときだけ『ヘレナ』は森の中を自由に動きまわることができるのにょさ。それに、『白い森』に行きたいって、キミ、ねがっていただろう?」

「そ……それは、そうだけど」


 そうこうしているうちに、ボクの目の前にルビー色の月の光に照らされた大きな森がひろがっていた。


「わああ。ピンク色のわたあめみたいだあ」


 ボクは、寒さのことなどすっかりわすれ、雪うさぎみたいに、ぴょんぴょんと、とびはねた。クッカに案内されて森の奥まで歩いていくと、真っ白なリスやライオンたちとはしゃいでいるルビー色の瞳をした真っ白な女の子がいた。あまりにきれいなので、ボクは、天使なんだと思った。


「わあっ! うれしいっ! ほんとうに来てくれたのね。はじめまして。わたし、『ヘレナ』」

「ねえ、キミが『白い森』の魔女なの?」

「ふふっ。わたし、そんなに、こわく見える?」

 そう言って、ヘレナは、ほほえんだ。

「そんなわけないよ! ボクには、キミが天使に見えるんだ」

「ありがとう。アレクシはやさしいんだね。そんなこと言われたの生まれてはじめてよ」


 ボクは、ヘレナや森のどうぶつたちと、めいっぱいあそんだ。おとうさんとおかあさんがお星さまになってから、こんなに笑ったことはなかった。東の空にオレンジ色のお日さまが顔をのぞかせるまで、ボクは、時がたつのをすっかりわすれていた。


「ごめんね。ヘレナ。ボク、もう、おうちに帰らないと。おにいちゃんが、とてもしんぱいするんだ。またあそびにくるよっ!」

「ありがとう、アレクシ。だけど、わたしたちとあそんだことは、だれにも言っちゃだめだよ。ふたりだけのひみつ」


 そう言って、ヘレナは、ボクのほっぺにキスをした。

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