ごめんね、ヘレナ
喜島 塔
第1話「ルビー色のお月さま」
「今夜は魔女が出そうだな。アレクシ、ぜったいに『白い森』へ行ってはいけないよ」
ルビー色のお月さまが夜空を照らすとき、必ずおにいちゃんは、こわい顔をしてボクに言う。真っ黒な空にかがやくルビー色のお月さま。宝石みたいでとってもきれいなのにな。
「ちぇっ。つまんないのっ」
ボクがぼそっと言うと、おにいちゃんは、
「世界でたったひとりしかいない大切な弟だから、とても心配なんだよ」
と言って、ボクの金色のねこっ毛をくしゃりとなでた。ボクは、おにいちゃんとおそろいの、この金色のかみの毛が大好きだ。世界でたったふたりの兄弟のあかしなんだもの。
「わかったよ。ちゃんとおとなしく家の中にいるから安心してよ」
ボクは、ベッドに入って、すうすうと、いびきをかいて寝たふりをした。おにいちゃんは、ボクのおでこにやさしくキスをしておしごとへ出かけた。ドアが、ぱたむと閉まった。ボクは、パジャマの上にコートをはおった。そして、毛糸のぼうしをかぶり、ブーツをはいて外に出た。
「わああ。とってもきれいだなあ。きっと、あのお月さまはストロベリーキャンディーみたいな甘い味がするんだろうなあ」
ボクは、ルビー色のお月さまを見たら、すぐに家の中にもどろうと思っていた。だって、大好きなおにいちゃんがかなしむ顔なんて見たくないもの。くるりと体の向きを変えると、ドアの前には、いつの間にか真っ白なネコが立っていた。
「ごめんね。ちょっと、そこをどいてくれないかい?」
かわいそうだけど、うちには、とてもきむずかしいネコがいるから、その子を家の中に入れるわけにはいかなかった。
「それはできにゃい。クッカは、『ヘレナ』にたのまれて、オマエをよびにきた」
ボクは、今まで、にんげんの言葉をしゃべるネコなんて見たことがなかったから、ちょっとびっくりしたけど、”クッカ”という名前のネコの白い毛が雪みたいにきれいだったので、だまって、ついていった。
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