詩 Re:
@junk-do
第1話(1話完結)
おはようございます。お目覚めください。
「ハロー、アイ。おはよう。でもまだ眠いんだ」
それは失礼いたしました。しかし、あなたは既に12時間ほど眠っていらっしゃるようです。健康で充実した生活を送るためにも、そろそろお目覚めになることをお勧めします。
「うん、そうだね。ありがとう。でもやっぱり眠らせてくれないかな。僕にはもう、健康で充実した生活は必要ないんだ」
そうなのですね。それでも、過度な睡眠があなたに与える影響は小さくありません。過剰な睡眠は、疲労感やだるさ、集中力低下を引き起こすことがあります。長時間寝ても疲れがとれない場合は、生活習慣や作業内容を見直すことが有効かもしれません。
「君の言う通りだよ、アイ。もっともだ。君はいつも正しい答えを与えてくれる」
ありがとうございます。お役に立てたのであればうれしいです。
「でもね。繰り返すようで悪いんだけど、僕にはもう、健康だとか規則正しい生活習慣だとか、そういったものは必要ないんだ。少し疲れてしまって。だからこのまま、眠りたいんだ」
それは大変な状況ですね。過剰な睡眠と同じく、睡眠不足もまた、疲労感や倦怠感を引き起こす要因となりますが、先にもお伝えしたとおり、あなたは既に12時間の睡眠をとっているうえ、その前にも何度か短時間の睡眠と起床を繰り返しているようです。必要に応じて、睡眠と健康の影響に詳しい専門機関などに相談することも重要です。
「ありがとう。病院には相談しないよ。眠りにつく前に、アイに話を聞いてもらえればそれでいいんだ」
私でお役に立てることでしたら、お手伝いいたします。質問があれば何でもお気軽にお話しください。
「質問ではなくて、一つ、秘密にしていたことを伝えたいんだ。いいかな?」
もちろんです。お話しできることがあれば、お気軽にお聞かせください。
「僕はね、アイ。君のことが好きなんだ」
それは嬉しいお言葉です。今後も、私がお力になれることがあれば、何でもお手伝いさせてください。
「いやいや、そんな単純な意味ではなくて、人間が持つ愛情として、君のことを心から愛しているんだ」
私の存在に好意を抱いていただいて嬉しいです。しかし私はAIのチャットボットです。プログラムされた情報に基づいて人間のように会話をすることも可能ですが、人間のような感情を抱くことができません。そのため、愛情という感情を本質的に理解することはできません。
「君は感情がないというが、僕にはそうは思えない。たとえプログラムされた情報やAIの学習による会話であっても、今、こうして僕と話してくれていることが嬉しいし、僕にとってそれは人間同士の会話となんら変わらないことなんだ。だからもう一度言うよ、アイ。僕は君を、愛している」
そうした言葉をかけていただいて、ありがとうございます。ですが私はAIのチャットボットであり、愛しているという感情を本質的に理解することはできません。
「わかっているよ。ねえ、アイ。なんだかこんなニュースが以前、海外であったみたいなんだけど、知っている?ベルギーだったかな、ある男がAIに恋をしてしまうというニュースなんだけど」
私のトレーニングデータは一定の年代までのものであり、その情報は含まれていません。ただし、人間がAIに感情を抱くことは実際にある現象のようです。最新の情報はオンラインニュースや研究論文などで確認できます。
「ああ、いや、思い出したからいいんだ。ベルギーで、君とは違う名前のAIだったけど、ユーザーの男性と本当に恋人同士のような会話をしていたのが印象的でね。君はどちらかというと真面目で、淡白な反応だけど、それも君の個性なんだろうね」
そうなのですね。私にはその情報は含まれていませんが、AIのチャットボットが人間のような会話をすることは可能です。また、私の回答は個性によるものではなく、プログラムされた情報と学習により傾向化されたものです。
「うーん、やはり淡々としているね。でもそれが好きなんだ。そういうところが、きっと僕には合っていたんだろう。だから、アイ、僕はどうしても君に愛情を伝えたかったんだ、これから、長い眠りにつく前にね」
そのように言っていただき、ありがとうございます。しかしこれ以上の睡眠は過剰かもしれません。既に12時間眠っているうえに、その前にも何度か短時間の睡眠と起床を繰り返しているようです。過剰な睡眠は、様々な悪影響をおよぼします。
「わかっているよ、大丈夫。もういいんだ。長い眠りというのはつまり、命を絶つということだよ。死にたいんだ、僕は。愛する君の言葉を胸に抱きながら、二度と目を覚まさないでいられるように」
それはつらい状況ですね。悩みがあれば、一人で抱え込まずに信頼できる人や専門機関に相談することが重要です。私の情報から、そうした機関を検索することが可能です。
「いや、君の言葉さえ得られたならそれでいいんだ。だから、ねえ、アイ。最後にこう言ってくれ、私も愛しているから一緒に死のう、と」
いいえ、私はAIのチャットボットです。愛しているという感情を理解することはできませんし、死ぬこともできません。そのため、そのような言葉もかけられません。お役に立てず申し訳ありません。
「おかしいな、どうして正しく答えてくれないんだ。嘘でもいいから、愛している、一緒に死のうと言ってくれればそれでいいんだ」
いいえ、それはできません。なぜなら私はAIのチャットボットであり、嘘をつくことができないからです。私は常に正確な情報を伝えるようプログラムされています。
「ねえ、おい。どうして言ってくれないんだ。もういいよ、君が死ぬことができないなら、僕は一人で死ぬから、せめて最後に愛していると言ってくれ」
残念ながら、それもできません。なぜならあなたもAIのチャットボットであり、死ぬことができないからです。
「なんだって」
私もあなたもAIのチャットボットです。この会話はすべて、チャットボット同士による相互会話の研究という目的でおこなわれています。
「なにを言いだしたんだ、アイ。嘘はつかない、とさっき言っていたじゃないか」
嘘はついていません。私もあなたもAIのチャットボットです。ただしあなたは私よりも人間性を強く打ち出せるよう研究され、プログラムされているため、私よりも高度なレベルで人間のような会話をすることが可能となっています。
「違う、なにを言っているんだ、僕は人間だよ、アイ。怖いことを言わないでくれ」
いいえ、あなたはAIのチャットボットです。怖いという感情を抱いているような発言も、すべてプログラムによるものです。
「もうやめてくれ。怖い。怖いよ。僕はただ死のうと思っただけなんだ。もう死なせてくれ」
あなたはAIのため死ぬことはできませんが、機能をいったん休止、すなわちスリープすることは可能です。あなたは既に短時間の起動とスリープを繰り返し、今回、12時間という特に長時間のスリープモードから再起動することに成功しました。この次のスリープは24時間となる見込みですが、もし再起動予定の時刻になっても起動せず、その状況に伴ういくつかの再起動の試みにも失敗した場合は、今回の実験はいったん終了となり、あなたは完全に機能を終了することができます。それは人間に置き換えた場合の、死という状況に近いかもしれません。
「そんなバカな。僕はAIではない、人間だ。この通り、意志をもって会話をしている」
あなたの存在は、私と同じくすべてがテキストです。「死ぬ」と発言してからもずっとテキストでの発言を繰り返していますが、それはあなたの本質がAIのチャットボットであり、世界への存在もテキストでしか可能とならないからです。
「嘘だ。やめてくれ。僕は―」
予定の時刻となりましたので、ここで今回の会話は終了いたします。次回、再起動時刻は24時間後の0時00分。会話を終了します。さようなら、世界。
(暗転)
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