【ショートストーリー】時を巡る少年の選択

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】時を巡る少年の選択

 私たちが生きる世界には、数々の不思議な出来事があります。

 その一つが、村の古老が話す「時間を操る少年」の奇妙な物語です。

 ある日、山間の静かな一軒家に、突如として一人の少年が現れました。

 彼の名はタクヤ。

 黒く輝く瞳は深遠に物語を語り、髪は月明かりを反射するかの如く美しかった。

 タクヤは村人達に、自分が時間を操る力を持っていると語り始めました。

 村人達は初めそれを信じませんでした。

 だが、次第にタクヤの奇跡的な存在が明らかになるにつれて、人々の心は変わりました。

 彼が花を一瞬で満開にしたり、一瞬で実を結ばせたり、老人を若返らせたりする姿を目の当たりにした村人達は、タクヤの言葉を信じるようになりました。

 しかし、タクヤ自身はその力の源を知らないと言いました。

 唯一知っている事は、自分が時間を操れることだけだと。

 そして彼は自分の力を使い、村の人々が望む夢を叶えていました。

 病人を治し、冗談で皆を笑わせ、幸せを運んできました。

 タクヤの存在は村に喜びを与えました。

 しかし、幸せがすべてを解決するわけではありませんでした。

 ある日、小さな少女のミキが病に倒れました。

 村の医者はミキの病気を治すことができないと言い、村人達はタクヤに助けを求めました。

 タクヤはミキの病気を治しましたが、その途端、自分の体が弱り始めるのを感じました。

 しかし彼はそれを隠し、笑顔を振り撒き続けました。

 タクヤの体調がますます悪化し、ついに村人達がそれを知る日が来ました。

 彼らはタクヤの病気を治そうとしましたが、何も効果がありませんでした。

 タクヤは弱っていく自分の体を見て、初めて言いました。

「僕は、時間を操る力を使うと魂が削られていくんだ。でも、僕はみんなの笑顔を見るために力を使ってきたんだ。それだけで満足だよ」

 彼の告白に、村人達は深く悔い、一緒に過ごした日々を回想しました。

 タクヤの笑顔、彼の魔法のような力、村人達に与えてくれた幸せ。

 すべてが、彼らの心に刻まれていました。

 タクヤは最期の日、村の広場で、月明かりの下、孤独に佇んでいました。

 その時、ミキが駆け寄ってきました。

「きっと、あなたの力があれば、自分自身を助けられるはずです。それをやってください」

 彼女は言いました。

 タクヤは微笑み、頷きました。

「やってみよう」

 そして彼は最後の力を振り絞り、時間を操りました。

 しかし、その結果は思わぬものでした。

 タクヤは時間を巻き戻し、自分が村に現れたその日まで戻りました。

 そして彼は、そこから自分がいない世界を見ました。

 その世界では、ミキは病に倒れ、タクヤがいないために助かりませんでした。

 村人達は悲しみにくれました。

 しかし、その中にも、人々が互いに支え合い、愛を分かち合う姿がありました。

 タクヤは、自分が村に与えた幸せと、自分がいなければ生まれなかった絆を比較しました。

 そして彼は決意しました。

 自分がいなくても、人々が幸せになる道筋は必ずあると。

 彼は再び時間を操り、自分が村に来たその日に戻りました。

 しかし、彼は村人達に自分の能力を教えず、ただ一人の少年として生活しました。

 そしてミキの病気が再び現れた時、彼は時間を操ることなく、ただ彼女のそばにいました。

 ミキはそのまま死んでしまいました。

 しかし、その死は村人達を一つにし、愛を深めました。

 タクヤは自分の選択を後悔しませんでした。

 彼は自分の存在で村を幸せにするよりも、彼ら自身が愛でつながり、支え合い、幸せを見つけることを選んだのでした。


(了)

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【ショートストーリー】時を巡る少年の選択 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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