魔王討伐に行くのに、メンタルがクソ雑魚過ぎる

佐々木 凛

勇者の嘆き

「なあ、一つ確認したいことがあるんだけど」

「ああ、何でも聞いてくれ相棒。俺たち、もう片時も離れないって誓った仲だろ」

「俺って、勇者だよな」

「ああ、そうだ。お前は勇者だ。間違いない」

「勇者ってさ、仲間と一緒に苦難を乗り越えながら闘ってさ、選ばれた人間として伝説の装備なんか持っちゃってさ、最後は魔王を打倒して民衆から称えられる人のことだよな」

「色々突っこみたいところはあるけど……まあ、概ねそんなところだろう」

「それで、お前がその伝説の装備、退魔の剣なんだよな」

「ああ。ありがちでとってつけたような適当な名前だが、俺が間違いなく伝説の装備、退魔の剣だ。俺がいれば、魔王討伐なんてお茶の子さいさいだ」

「そうだよな。じゃあ、なんで俺は今、このだだっ広い草原の真ん中で、一人寂しくお前と話してるんだ?」

「……」

「俺さ、五人で魔王討伐の旅に出たはずだったんだよ。でもさ、気付いたら仲間が誰一人いなくなってたんだよ。不思議だよな、なんでかな。誰も死んでないはずなのに、どうして皆いなくなっちゃのかな。俺、嫌われてたのかな。やっぱり、俺が気持ち悪いから駄目なのかな」

「おいおい、落ち着けよ。またお前のダメなところが出てるぞ。そんなに自分のことを卑下するな。いいじゃねえか、仲間の一人や二人居なくなったって。俺がついてるぜ」

「そうはいってもさ――あ、今向こうを歩いていた子供に笑われた。あいつ、俺のこと気持ち悪いって笑いやがったんだ。クソガキが……どう料理してやろうか」

「子ども相手にムキになるな。大体、お前が気持ち悪がられる理由なんて、どこを探しても無いだろ。お前は勇者、子どもたちからは憧れの的だ!」

「俺が気持ち悪がられる理由? あるよ、滅茶苦茶あるよ。心当たりしかないよ」

「だから、そうやって自分を追い詰めるのは止めろ」

「ちげえよ、お前だよ。お前が俺にだけ聞こえる声とかいって、ずっとネガティブなこと言ってくるからこんな風になっちまったんだよ」

「人のせいにするのはよくないぞ」

「うるせえよ! お前が仲間がピンチになってる場面でも所かまわずへそ曲げたりするから、皆からの信頼を失っただよ。ゲルミルが離脱する時、なんて言ったか覚えてないのか」

「過去は振り返らない主義なんだ」

「お前の役職は勇者っていうより応援団長だなって、あいつはそう言ったんだよ。へそ曲げたお前の機嫌取るために適当なこと言ってたら、戦闘中に急に戦闘放棄して熱く語りだす変態だって、そう言われたんだよ」

「……ああ、あれって適当に言ってただけなんだ。なんだよ、やっぱり俺のこと信頼なんてしてなかったのかよ。ああ、やっぱり俺は存在価値のない粗大ごみなんだ。とっとと折れて、ゴミ置き場に捨てられればいいんだ。いや、それじゃあまだ生温い。もっと残酷で、救いようのない最期を――」

「また始まったよ、黙れよ。今愚痴言ってるのは俺なんだよ」

「でもさ、お前だって最初はテンション上がってたじゃん」

「そりゃそうだろ。歴代勇者が魔王討伐に使い続けてきた、選ばれしものだけが使うことの許される伝説の装備。そんな響きの格好いい装備を使えるって分かったら、誰だってテンション上がるだろ」

「話しかけた時だって、嬉しそうにしてたじゃん。あの時俺に見せてくれたあの表情は、眩しいい笑顔は噓だったのかよ」

「いや、あれは本当だったよ。でもさ、装備から話しかけられる時はさ、装備者が覚醒することが約束されてるもんなのよ。それでもっと強くなってさ、封印された力とかなんかが呼び覚まされてさ、格好よく一撃で魔王をしとめるとかさ、そう言うのがお約束なのよ」

「知らねえよ」

「それがさ、ずっと愚痴きかされるなんて思わないじゃん。お前装備してから三日で、これまでの歴代勇者が何で底抜けに明るい人たちばっかりだったのか、ようやく理解したわ。そりゃあ、こんな精神攻撃ずっと受けてたら、メンタル強くもなるわな」

「言い過ぎじゃない!? 俺一応、これでも伝説の装備だよ?」

「何が伝説の装備だよ。こっちはもう精神参ってんだよ。デバフしかかかってないんだよ。何も恩恵にあずかってないんだよ。お前伝説の装備っていうか、どっちかっていうと特級呪b――」

「それ以上はよくない」

「退魔の剣には大きな秘密が隠されている。その剣を引き抜いた選ばれし者だけが、それを知ることになるだろう。……なんて意味深に祠に書いてあったらさ、どっかのタイミングで俺の潜在能力が解放されて、破格的に強くなるんだろうなとか思うじゃん。そういう決まりじゃん」

「だから、知らんて」

「なのにこれだよ。ほんとに何なの。あんな意味深なこと書くなよ、カス」

「俺が書いたんじゃないって!」

「ああ、俺はどうしたらいいんだ」

「もういいよ。お前の愚痴聞き飽きたよ。そんなことしてたって、何の生産性も無い」

「お前だけには、お前だけには言われたくない。こちとらお前の愚痴に半年以上耐えてるんだよ。こんな少々俺がギャーギャー言った程度で怒るなんて、俺は認めないぞ」

「分かったって……って、おい。向こうからこん棒持った巨人がこっちに来るぞ」

「ああ、あれはまずいな。間違いなく、魔王軍が俺たちに差し向けた刺客だろう。闘うぞ」

「……」

「……おい、噓だろ」

「俺なんてここで朽ち果てるべき存在なんだ。何の役にも立てず、全人類から罵られるだけの存在、それが俺なんだ。どうせ俺なんて、闘ってもスライムに小指でひねりつぶされるんだ。そうだ、いっそのことこのままあの巨人にへし折られてしまえばいいんだ。そうすれば、俺はもう苦しまなくて済む」

「おい待て、そんなことされたら俺が困る。待て、待てって。力抜いてんじゃねよ。へにゃへにゃのペラペラになってんじゃねえ! これじゃあ、闘えねえじゃねえか」

「もういっそのこと、一緒に死のう。そうすれば、もう何も悩まなくて済む。俺たちは、この世界から解放される」

「精神の脆弱性が突き抜けて、行くところまで行っちまった。どこの世界に、使用者と無理心中を図る伝説の装備があるんだよ」

「死は救いだ」

「言ってることが完全に魔王サイド。おい、悪かったって。今まで言ったことは全部謝るから。また一緒に闘おうぜ」

「もうヤダ。もう闘いたくない、裏切られたくない。一緒に死のう? そうすれば、ずっと一緒にいられる」

「怖えよ。頼む、俺はこんなところで死にたくないんだ」

「そうやって、結局最後まで自分勝手なんだね」

「チッ、うるせえy――ああ、いや、違う。俺は、こんなところでお前を死なせるわけにはいかないんだ」

「え……」

「俺たちは、もう一生離れない。そう、誓っただろ?」

「……もう、これが最後のチャンスなんだからね」


 かくして、勇者が伝説の装備の機嫌を取りながら進む、魔王討伐の旅が始まったのだった。


――続かない

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