処刑ビデオ(仮題)

べっ紅飴

第1話

9月12日、夏休みも明けて間もないころ、その事件は起きた。

当時はSNSが世間に浸透し始めて間もないくらいの時期だったけれど、それはネット上で瞬く間に拡散された。


中学生くらいの少年が薄暗い部屋に裸で拘束されたまま、何者かに首をゆっくりと切断される動画は社会の関心を大いに引き寄せたのである。


事件の全貌はいまだに明らかになっておらず、死体すら発見されていない。

映像が薄暗かったこともあって、殺された少年が誰であったのかを特定することはできなかったらしい。結局その事件は映像が荒かったこともあり、検察は何者かの悪戯ということで処理された。


SNS中で拡散されたこともあって、私は見たくもないのにその映像を見る羽目になってしまったが、それは恐ろしく、残酷で、悍ましいもので、とても面白がって見られるような代物ではなかったが、どういうわけか私が通っていた中学校の同級生の反応はそれとは真逆で、日常の中に突如として現れた非日常を楽しんでいるようだった。


「例の動画見た?」   「やばかったww」

      「ちょっとやめてよー」 

   「マジグロかったよな」  「犯行予告あったらしいぜw」


 私がそれに対してため息を吐いたとか、そんな詳細までは覚えていないが、その時の私は会話に応じつつも内心でとてもウンザリしていたことははっきりと記憶している。


しかし、そんなことを思いながらも私も他人事のように思っていたから、彼らを非難しようとかそんな気持ちは全く芽生えなかった。


そんな話題も1か月もすれば落ち着いて、誰もその話題を口にしなくなった。


正確には、誰もその話題を口にしようとしなくなった、それが一番相応しい説明だろう。


他人事だと思っていた事件や危機が実は自分たちの身近で起きていたことなんだと知った時、誰もが唖然するものだ。


今の今まで笑い飛ばしていた人間が、それを知った瞬間青ざめた顔でひそひそと周囲の人間と不安を紛らわせるために話し始める姿は滑稽そのものだった。


他人ごとだったでき事が自分ごとになった瞬間に、人間というのは直前の態度をすぐさま改めて、手のひらを反して正反対のことを言い始めるのかと、私は彼らの切り替えの早さに呆れるばかりだったが、そんな私とて、この時ばかりは冷静でいられず、ひどく狼狽した。


なぜかといえば、以前まで親しくしていた友人があの映像の中で殺された少年ではないかという噂が立ったからである。


思春期ともなれば、自我の確立に伴って、親しくしていた友人とそりが合わなくなって、疎遠になってしまうなんてことは珍しいことではなく、その例にもれず私はその少年、高岡孝明と顔を合わせてもあまり会話をしなくなっていた。


些細なことがきっかけで喧嘩をしてしまって、いつものようにそのうち仲直りするだろうと高を括っているうちにお互いに謝るタイミングを逃してしまって、そのままずるずると、目を合わせても会話すらしないような関係へとこじれてしまったのだ。


明日謝ろうと、それを何日も、何週間も続けてしまったのだ。


時間が開けば開くほど言い出しづらくなってしまって、私は彼とどうやって話していたのかすらも思い出せなくなっていた。



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処刑ビデオ(仮題) べっ紅飴 @nyaru_hotepu

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