穏やかで優しい夫

土偶の友@転生幼女3巻発売中!

第1話

 私は小腹が空いたので寝る前に台所に向かうと、夫である昭雄が冷蔵庫に顔を突っ込み、中身を食い漁っていた。

 彼は夕飯の際、いつものように私や息子である健介の分まで食べ、満腹になったと言っていたはず。

 それなのに、今こうして私の目の前には冷蔵庫の中身をこぼしながらも、ただひたすらに食べる豚になっている。


「ちょっと……仕事があるから寝るのは後にするって……いや、それよりも、明日の分もあるんだけど? っていうか……食べるにしても出してちゃんと食器を使ってよ……もう、掃除はしておいてよね?」


 追加で作ろうとしたら食事も全て食べられ、仕方なく夫が仕事に集中している時に食べようと思っていたのに……。

 そんなに食べるなんて、一体どうしたのだろうか。

 いつもは穏やかで優しい夫なのに。


 私は考えを振り払い自分の腹を満たそうと、夫の横を通って戸棚を開ける。

 中からクラッカーの入った箱を出して、それを開ける。

 クラッカーは1箱の中に2袋入っていて、1袋に20枚のクラッカーが入っていた。

 全部食べる気はなく、1袋だけ食べるつもりだったのだけど……。


「……」

「あなた?」


 私は箱を開けて中の袋を破った時に、鋭い視線を感じる。

 視線の主は当然夫、彼は私……いや、私の持っているクラッカーを目を見開いて見つめていた。


「……(ごくり)」


 私はいつもの夫との雰囲気の違いに息を飲む。


 彼はいつもは穏やかで、優しく文句のつけどころもない。

 でも、今は私の持つクラッカーを猛禽類のような鋭い目で見て、今にも襲いかからんばかり。


 私は思わず後ずさった。


 すると、夫は右手を一歩、私の方に進めた。

 歩みはまるで四足動物のように、獲物との距離を離さないように。


「ちょ、ちょっと……冗談はやめてよ」

「……」

「な、何か言ってよ。なんでそんな目を向けて来るの? 夕飯もあげたし、その後も勝手に食べたでしょう? 何か不満があっても、話し合って解決して来たでしょう?」

「……」

「やめて、来ないで。止まってよ!」

「……」


 私はキッチンの奥に背がつく。

 右手は食器棚、左手はコンロであり、目の前には獣のような夫。

 このままでは私は食べられる。

 そう思ったら、手に持っていたクラッカーを夫に投げつけていた。


「これがほしいんでしょ!」


 バン!


 夫の顔面にクラッカーが直撃し、中身が割れた音がする。


 夫は顔に当たったクラッカーを受け止め、そのまま袋ごとむしゃむしゃと食べ始めた。


「ひっ!」


 私は恐怖を感じたけれど、この隙を逃がしてはならないと夫の脇を抜けて自分の部屋に急ぐ。


「なんでなんでなんで」


 私の脳裏には優しかった夫と、獣のように変わってしまった夫が交互に映っては消えていく。

 元の夫に戻って欲しい。

 でも、戻ってくれるのだろうか。


 いや、今はそんな事を考えている暇はない。

 ドタドタと走って階段を2段飛ばしで駆けあがり、2階にある夫婦の部屋に戻って鍵をかける。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……なんで……なんで……」


 私は自分のシングルベットに腰かけ、今日あったことを……夫が仕事から帰って来てからのことを思い出す。


 特におかしいところはなかったはずだ。

 ただ……結婚して、子供――健介が10才を迎えた辺りから、少し……変わっていたような気がする。

 具体的に言うと、いわゆる食らいつくし系……と呼ばれるものだと思う。

 最初は私や健介の分を一口ちょうだいと言って食べたり、残してるそぶりを見せるとすかさず食べつくす。

 何度言っても変わらず、仕事のストレスでもあるのだろう。

 そう思って諦めていたのだけれど……。


「それが……年々酷くなっていった」


 今日等は特にそうだった。

 私は自分が作った料理の1割も食べられず、健介も3割食べられたかどうか。

 全ての料理を夫が食べ、そして、自分の物にするように囲っていた。


 私も健介もそれに慣れていたから、いつものこと……そう思って流していた。

 でも、今の……夫を思うと、もっと……前から何とかしなければならなかったのかもしれない。


「はぁ……でも……お腹空いた……。あ、あるじゃん……」


 私は手に持っていたクラッカーのもう一袋を思いだす。

 1袋は夫に投げつけたけれど、もう一つは手に持っている箱の中に入っている。

 

「ちょっと……一息つくか……」


 私は袋を開けて、窓から外を見る。


「猛吹雪……だからご飯とかたくさん買い置きしておいたのにな……食べられちゃうかな……」


 サクッ。


 私は薄い塩味のついたクラッカーを食べ、これから数日後のことに思いを巡らせる。

 私の住む場所は豪雪地帯で有名で、今も1ⅿほどの雪が家の周囲を囲っている。

 だから外に出るに出られず、こうしているのだけれど……。


「はぁ……どうしたらよかったんだろう」


 ドンドンドンドンドン!!!


「ひゃああああ!!??」


 私は思わず叫ぶ。

 音の発生源は私の後ろの扉から。

 それに、こんな叩き方をするのは……。


「昭雄……さん?」


 ドンドンドンドンドン!!!


 しかし、返事はなく、ただただ扉が乱暴に叩かれる。


「ちょっと、叩くのはやめて! 壊れちゃうでしょ!」


 もう新築とは言えないけれど、それでも息子が生まれてから12年も過ごした場所だ。

 仕方ないことがあるとしても、意図的に壊されるのは我慢ならない。


「……」


 私の言葉が通じたのか、夫は叩くのを止める。


「よかった……話が通じた……」


 そう思って一安心したけれど、次の瞬間、外の音が奥の部屋に向かう。


 ギシ。


「……」


 私達の奥の部屋、そこには健介の部屋しかない。

 そして、健介の部屋は子供部屋らしく色々な物が部屋においてある。

 おもちゃからゲーム、スポーツ用具そして、お菓子。


「……」


 夫はこの家にあるあらゆる食べ物を食べようとしているのではないのか。

 そうであるなら、健介の部屋に行き、その中の物を食べてしまう可能性が……そして、その際に健介に何かをしてしまうのかもしれない。


 なら……ここで……私が出て行って、なんとかしなければ。


「どうやって?」


 夫は普通の体型だけれど、私だって普通の体型だ。

 男と女、平均的な力を比べたら男が勝つに決まっている。

 でも、健介は12才。

 夫と力比べでもすることになったら……。


「でも、助けないと」


 夫が健介の部屋まですぐだ。


 私は迷っている暇も、武器を探している暇もない。

 何か使える物、そう思って探したけれど、手に持っていることに気付く。


 私はすぐに扉を開けて、夫を呼んだ。


「あなた! これが食べたかったんでしょう!」

「があああああああ!!!」


 夫は獣の様な雄叫びを上げて目を血走らせながら私に向かってくる。

 思わず足から力が抜けそうになるが、何とか当初の目的を思いだして行動した。


「あっちにいって!」


 私は健介の部屋と反対方向に手にクラッカーを投げつけてしゃがむ。


「がああああああああああ!!!!!」


 夫の叫び声はクラッカーの方に行く。


 私は勇気を振り絞り、健介の部屋に走る。

 そして、ドアノブをひねると案の定鍵はかかっていない。

 ドアを開けて部屋に入ると、そのまま過去一番の速さで鍵をかけた。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……これで……助かった」


 私は健介の部屋に辿りついた安心感からその場にへたり込む。


 もう当分は動きたくない。

 というか、朝になれば夫も戻ってくれているのではないだろうか。

 もし……戻っていない時は……。


 そんな事を考えていると、ベッドの方からもぞもぞと音がする。


「……お母さん……どうしたの?」


 健介が起きてしまったらしい。

 まぁ……あんな風に暴れていたら起きても仕方ないだろう。


 私は暗闇で見えないけれど、安心させるように笑顔を向ける。


「健介。大丈夫。心配いらないから寝てて」

「うん……ダメ。トイレ」

「……」


 私は思わず目を閉じて天を仰ぐ。


 せっかく……せっかくここまで来たのに、どうして……。

 でも、ここで部屋の外に行くなんて死ににいくような物だ。

 だからなんとか……あ。


「健介。窓からしなさい」

「……嫌だよ? なんでそんなこと言うの?」

「今は……ちょっと……トイレが壊れているの。だから、外でいいのよ」


 外は1ⅿもの雪が積もっている。

 だから少しくらいは問題ないだろう。


「えーウンチしたいんだけど」

「……それは……」


 流石に外にしてもらう訳には……。

 でも……雪が溶けた頃にはきっと……変わっているんじゃ……いや、この騒動が収まってからなら……。


「ねぇ、母さん。僕はもう一人でできるからそこ退いて」


 健介は起き上がり、私の方に向かって進んで来る。


「ダメ。ダメよ。ここは通さない」

「なんで?」

「今は……その……外に出たらダメなのよ」


 夫のあんな姿を健介に見せる訳にはいかない。


 なんとか健介を行かせないようにしなければ。


「どうして?」

「その……今廊下になまはげが来ているの。だからダメよ」

「僕、悪い子じゃないよ」

「いい子も食べるなまはげなのよ」

「それなまはげじゃないよ」

「そうかもしれない。だから、今そういう危ないのが来ているの。だから出たらダメ」


 息子は納得してくれたのか、私の方から離れる。

 そして、窓に近づいてカーテンをおもむろに開けた。


「……家の前に足跡ないじゃん。なまはげに似た何かはいないよ」

「いえ、いるわ。いるの。だから、ダメなのよ」

「漏れちゃうよ!」

「だから外にしなさい!」

「嫌だよ!」


 そう言って健介が私の方に来た。


 ドンドンドンドンドンドン!!!!!


「ひぃ!」

「な、何!?」


 私は跳び上がり、健介もあまりのことに足を止める。


「なまはげよ。だから……来ないで。いい?」

「う、うん……」


 健介はドンドンと叩かれる音に恐怖からか体を震わせている。

 なんとしても……たとえ、私がどうにかなったとしても、彼だけは助けないと……。


 そう思ったけれど、後ろで叩かれる音はより強くなっていく。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!!!


 ミシリ。


 私の後ろで、扉が異音を上げる。

 微かな音だったけれど、感覚が限界まで研ぎ澄まされている私にとって、確かにその音は聞こえた。

 だけれど、どうしようもない。

 ここは角部屋で他の部屋に繋がる扉なんてないし、屋根裏部屋なんて便利な部屋もない。

 逃げるなら夫を躱して行かなければならないけれど、震える健介では無理だ。

 まぁ、私が彼を抱えたとしても、絶対に追いつかれるだろうけれど。


 ならどうするか。

 私は、カーテンで閉じられた窓を見る。


「健介! カーテンを開けて!」

「え? な、なんで……」

「いいから! 早く!」

「わ、分かった!」


 健介は急いで窓辺に駆け寄り、カーテンを開ける。


 そこは、先ほど見た通りの猛吹雪だった。


「開けたよ! 母さん!」

「窓を開けて!」

「ええ! こんな寒い中でトイレなんてできないよ!」

「そっちじゃない! 今は家から逃げるのよ!」

「逃げるってどこに!?」

「お隣さんに行きましょう!」

「なまはげ的なのが追ってくるんじゃないの!?」

「今はそんなこと言っている暇はないの! 早く!」

「わ、分かったよ!」


 健介はそう言って窓を開ける。

 すると、外の凍えるような冷気が部屋いっぱいに入り込んでくる。


「寒い!」


 健介が叫ぶけれど、私はそんなの関係ないとばかりに窓辺に走る。


 そして、窓から下をのぞき込むと、地面はかなり雪で覆われていた。


「健介! おいで! 飛び降りる!」

「嘘でしょ!?」

「時間がない! 早く!」


 扉はドンドンと叩かれ、壊れるまで時間があるようには思えない。


「っ! 分かった!」


 健介もすぐに理解してくれて、私の側に駆け寄る。

 次の瞬間、扉が破られた。


「うわあああああああ!!!」


 一瞬振り向いた健介の目に、夫の姿はどう映ったのだろうか。

 目が血走り、四つん這いで獲物を探すようにしてこちらを見つめる夫。

 表情は獣のように口が裂けているように見え、優しかった夫は消えている。


「早く!」

「うん!」


 私は健介を受け止め、そのまま窓から飛び降りようとする。


「っ!」


 でも、ほんの少し、迷いが出てしまった。

 高さは2階、こんな寒さの中に飛び降りて無事にすむのか、もし……少し怪我をしてしまったら、夫に追いつかれて……。

 迷ったのは一瞬、でも、その一瞬が夫を正気に戻した。


「けん……すけ……?」

「え? 父さん?」

「あなた……?」


 私は飛び降りようとしていた体勢のまま振り返る。

 すると、そこには頭を抑え、苦痛に耐えるような夫がいた。


「もしかして……」


 健介を見たから……彼は元に戻ったのだろうか?

 私であんな風になってしまった、ということは悲しいけれど、大事な息子の姿を見て正気に戻ってくれたことは、素直に嬉しかった。


「健介! 父さんを見て!」

「ええ!? なまはげ的なのって父さんだったの!?」

「いいから! 早く!」

「う、うん! 分かった」


 健介が夫を見ると、夫は夫でひたすら何かに耐えるようにのたうち回る。


「あなた! 健介よ! 大事な息子よ!」

「うぅ……ぐぅ……がぁ!」

「健介、ちゃんと顔を見せてあげましょう。でも、私の前に出ちゃダメよ」

「うん。分かった」


 それから、私達は夫に近付いて健介の顔を見せるようにする。


「ふぅ……ふぅふぅふぅ……がぁ……」

「あなた、大丈夫? 何であんなことを?」

「わか……らない……でも……ぐぅ……でも……何か……が、俺の……中に……」

「どうしたらいいの……」


 夫の容態ようだいが悪く、どうしたらいいのか分からない。


 そんな時に、健介が口を開く。


「悪いモノがいる時は、塩とか酒を飲ませるといいらしいよ」

「まぁ、流石健介ね。そんな事を知っているなんて。取りに行きましょう」

「う、うん……でも、僕はここで父さんを……」

「ううん。まだどうなるか分からない。だから一緒に行くの。でもそうね、このままだと危ないから……」


 私は部屋を見回し、タオルを見つけた。


「あなた? 少しじっとしていてね」


 私はそう言って、彼の手足を縛り、身動きを取れなくしていく。


 夫は必死に抑え込もうとしていて、じっとしてくれていたのでなんとかなった。


「あなた、待っていてね。すぐに元に戻してあげるから」


 私は夫にそう告げて、健介の手を引いて急いで台所に行く。

 すると、健介が言っていたからか、食い荒らされた後はあったけれど、塩や酒は無傷のまま残っていた。


「よし、これを持って……行こう」

「父さん……それで元に戻るのかな……」

「……分からない。でも、信じましょう」

「うん……」


 私は大事な大事な息子を抱きしめ、夫の待つ部屋に向かう。

 そして、夫の顔に塩を投げつけ、口から勢いよく酒を注ぎ込む。


「んーんーんんんんー!!!」

「我慢して! あなたが暴れたらもうどうにもならないの!」

「んんんー!! んんーー!!」


 夫が目でやめろと言い続けるけれど、それはできない。


 私たちの命がかかっているのだ。


 それから、夫がぐったりとしたところで、息子に取りに行かせていていたガムテープを受け取り、夫の手足をぐるぐる巻きにして動けなくしていく。

 タオルの上から念入りにだ。


「か、母さん?」

「仕方ないのよ。健介。こうしないと、また……暴れるかもしれない。そうなったら……私達は助からない」

「なら、病院に連れて行こうよ」

「こんな吹雪で行ける訳ないでしょう。さ、後は私がやっておくからあなたは寝て」


 私は健介の部屋の窓を閉じ、カーテンを閉めた。

 後はぐるぐる巻きにされて、ピクリとも動かない夫を引きずって健介の部屋を出る。


「それじゃあ、おやすみなさい」

「うん……お休み」


 私は健介と別れて部屋を閉じる。

 それから自室に戻り、夫を彼の部屋の布団に寝かせた。


 彼を部屋に入れ、扉を閉めて少し安心した後たっぷりと1時間、夫の症状を調べる。

 調べてみた感じ、予想していた食らいつくし系……というのしかないと思った。

 それは精神的ストレスを感じ、家の中で家族の食事を全て食らいつくしてしまうというものだ。


 でも、こんな恐ろしいほどに変貌した話は聞かない、それに。


「ストレス……か。そんなの与えてないと思うんだけどなぁ……でも、お医者さんにも治し方が分からない、よくわからないものらしいし……」


 なら、一生夫はこのままなのか。

 でも、離婚をするにしても、今のままでは無理だ。

 この猛吹雪は当分続くらしいし、貯蓄がそこまである訳ではない。

 なんとかして、この期間を乗り切って、そして、夫から十分に費用を吸い取ってからでなければ。


「……」


 私が部屋越しに夫を見ると彼ははピクリとも動かずただじっとしている。

 でも、このまま放っておいたら、ガムテープとタオルを破って動き始めるかもしれない。

 元に戻ったと思っていても、今のままでは、いつああなるか分からない。

 そうしたら、私や健介に……何かをしでかすかもしれない。


 不安に駆られた私は、対処をしようと決めた。


 私はベッドから起き上がり、窓際に置かれている檻……彼の部屋を見る。


 彼はカプセルホテルのベットの半分くらいの檻の中で寝ていて、今日も気持ちよさそうに寝ている。


 そんな姿を見て、私は確信した。

 こんな調子の夫をこのままにしておくわけにはいかない。

 私のためにも、健介のためにも。


 私はカーテンを開け、窓を開く。

 下には雪が積もり、衝撃を吸収するかもしれない。

 でも、これをやるのが、今……一番いいはずだと私は思った。


「あなた……私達のために、お願いね」

「……」

「うん。聞いてくれてありがとう。あなたがいつもそうやって私の言葉を聞いてくれるから助かっているわ」


 私は彼と話し合い、彼を檻から引きずり出し、口にガムテープを巻く。

 そして、足から落ちるように気を付けて、彼を窓から落とした。


「とりあえず……様子を見ようかしら」


 私は寒いのがいやなので、窓を閉めて玄関に急ぐ。

 そして、玄関を出ると、夫が目を血走らせて私を見ていた。


「どう……足の調子は」

「んー! んんー!!」

「そう……まだ大丈夫そうね。何回やらないといけないのかしら」

「んー!?」


 私は面倒だと思いながらも、夫を引きずり、彼の足が使えなくなるまで、10回以上も窓から落とし続けた。

 疲れた……夫が自分から飛んでくれればよかったのに。


 何回か落とすと、夫は叫ぶのをやめて静かになった。

 きっと、私が夫を落とすのに慣れたから、注意をしないようになっただけだろう。


 夫は穏やかで優しい。

 私が間違って落ちないように声をあげてくれていたに違いない。

 ああ、本当に……夫は優しい最高の夫だ。


 後は二度と豹変しないようにちゃんと話し合う必要がある。

 それで、きっと彼はいつもの穏やかで優しい夫になるだろう。


FIN

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