美少女姉妹との秘密の関係は甘い甘い蜜の味

片銀太郎

第1話


「どうですか先輩、お姉ちゃんはこんなコトしてくれませんよ……?」


 耳元でささやく声、その甘い響きは脳の髄をとろかすよう。

 言葉を終えると共に、耳が暖かなものに包まれた。


 背筋がびくりと震えた。


 聴覚の刺激と触覚の刺激。ささやきと共に耳が甘噛みされたのだとわかる。弾力のある唇が耳朶をはさみこみ、舌先がちろちろとねぶる。弄ぶような動きなのにどこまでも蠱惑的、耳を通して脳をいじられているような気がしてくる。


 思わず声をあげた。


「やめてくれ、東條とうじょう


「えー、私もお姉ちゃんも東條とうじょうですから、どっちにお願いしてるかわからないですね~、えーい、かぷっ」


 今度はわずかに歯を立てた。犬歯の先が、ちくりと耳に食い込む。傷がつかない程度のかすかな痛み、続けて送り込まれた舌先が噛んだ箇所を舐め、痛みを甘い痺れに塗り替えた。頭の奥も甘く痺れて、何も考えられなくなってくる。


 このままではダメになってしまう。

 本能と理性のはざまで彼女の名前を呼んだ。


「やめてくれ、かすみ……」


 名前を呼ばれた彼女は満足そうに耳から離れる。

 唾液の糸が一瞬引いて、途切れて消えた。


 彼女の名前は、東條とうじょう かすみ

 かつての思い人、東條とうじょう はるかの妹だ。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか。


 同い年の東條とうじょう はるかを好きになったのが半年前のこと。猛アタックの末、徐々に心の距離を近づけてきた。もうそろそろお友達の先に進めるかもしれないと思ったところで現れたのがはるかの妹、東條とうじょう かすみだ。


 かすみはるかにも負けない美貌を持ち合わせていた。違うのはその行動、心をくすぐる小悪魔的な振る舞いとはるかを追い続ける中での精神的な疲れを労ってみせる優しさで、いつのまにかこちらの心にすべりこんできた。


 押され、崩され、籠絡され、姉のはるかには言えない秘密の関係になってしまっている。こうして留守中のはるかの部屋に通され、はるかのベッドに座らされ、背後からささやきと耳舐めで攻められているのが現状だ。


 かすみは、背中から正面に移ると、こちらの膝に腰を下ろし、語りかけてくる。

 

「ここはお姉ちゃんの部屋でお姉ちゃんのベッドの上、先輩は、誰と、どんなことがしたいですか?」


 はるかとよく似た顔、よく似た表情。だがかすみの瞳の向こうにあるのははるかの親愛ではなく、じっとりとした熱情。それだけでここまで印象が変わってしまう。その瞳に惹きつけられて目が離せない。


「見てください、先輩。お姉ちゃんと同じ髪型ですよ。この髪型好きでしたよね?」


 かすみの今の髪型は、細い編み込みを垂らしたロングヘア。こちらの目の前でひるがえして見せる。かつて抱き寄せたいと思った姿がダブって見え、胸の奥がどくんと高鳴る。


「この服もお姉ちゃんの服ですよ。ふふっ、私にはちょっとキツいですけどね……」


 そう言ってかすみはガーリーなワンピースの胸元を押し付けてきた。姉のはるかとは異なる部分、豊かな胸でワンピースの布地はぱんぱんに張り詰めていた。好きだった女の子と同じ部分と違う部分、その両方が柔らかな感触とともに理性を奪い、思考をとろけさせてゆく。


 もう我慢の限界だった。


かすみ……」


 膝の上の少女を抱きしめようとすると、少女は手でこちらの動きを遮った。


「ダメですよ、先輩。ちゃんと言ってください。先輩は、お姉ちゃんの部屋で、お姉ちゃんのベッドの上で、誰を抱きしめようとしているんですか?」


 これは契約だ。


 はるかのための場所、もっともはるかに近しい場所で、違う少女を抱くと宣誓する。それははるかに背を向ける行為であり、かつての恋心を汚すための行為でもある。だが今の自分には、それがとても甘美な蜜の味にしか感じられなかった。


「好きだ、かすみ! はるかじゃない、今ここでかすみを抱きたい!」


 今度はかすみも抗わなかった。

 ベッドに倒れ込み、絡みあおうとする。

 その時、冷たい声が響いた。


「二人とも……何をしているの……!?」


 東條とうじょう はるかの姿がそこにあった。






 それから数分後、かすみと一緒に正座させられていた。


 目の前にはぷんすか怒るはるかの姿がある。


「だから何度も言ってるでしょ! 私の部屋を略奪風プレイの場所にしないで! どんな気持ちでこの部屋で寝ればいいのよ! そもそも略奪じゃないし、二人が出会ったらすぐに意気投合して付き合っちゃったくせに!!」


 かすみはバツが悪そうに髪をいじる。


「うん、お付き合いをしたのは私だけど、先輩が最初お姉ちゃんのことを好きだったのが悔しいから『今は、私の方が好き』って、ことあるたびに言わせるようにしてたら、なんかクセになっちゃって……つい……」


「つい、じゃないわよ! それに、また私の服勝手に着てる! 伸びちゃってるじゃない! 買い替えてもらうからね!」


「ごめんなさい! 先輩と一緒に買いに行きますので平に御容赦を! あと私の新しい服も買ってもらいます!」


「ちょっと待て、なに勝手に決めて」


「先輩も楽しんだんだから同罪です! はい! ごめんなさい!」


 かすみはパチンとウインク、こちらの頭も一緒に下げさせてくる。

 その小悪魔のような微笑みに毒気を抜かれて従ってしまう。


 二人並んで土下座しながら、今までのことを思う。


 まぁ、色々あったが最終的に言えることは、

 この姉妹には勝てる気がしない、そういうことだ。


 (終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美少女姉妹との秘密の関係は甘い甘い蜜の味 片銀太郎 @akio44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画