冬空の帰り道

 音楽を聴きながら帰り道を歩いていた。出会ってから四年間聴き続けている曲だ。

 今の流行りの曲は変わったのだろうか。そんなことを考えながらイヤホンの位置を調整した。


 あの日からだいたい一ヶ月くらい。須藤さんとは話さなくなった。だけどあまり寂しいとは思えなかった。普通はやっぱり寂しがるものなのかな、と思う。

 すると、私の背後から私を呼ぶ声がした。イヤホンを外してそちらに向くと、そこには須藤さんが立っていた。


「フミちゃん! 一緒に帰ろ!」

「え、あ、うん……」


 その謎の勢いに押される形で私は頷いた。

 だが並んで歩く帰り道はいつもと違っていた。須藤さんが何も話さない。それにどこか須藤さんの表情がぎこちないし、ちらちらと私を見ている。

 基本的に私から話しかけることは無いので、須藤さんから話さないなら会話は生まれない。しかし今回は私から話さないといけない予感がした。


「あ、あの日はほんと、ごめんね……?」

「全然怒ってないよ。私の方こそ、変に誘ってごめん」

「須藤さんが謝ることないのに……。それに、う、嬉しい誘いだったよ?」

「それ本当?」

「あ……うん。殴っておいて変、だよね。でも、誘いは、嬉しかったんだよ」

「誘い、かぁ」


 ふぅ、と息を吐いた須藤さんは言った。


「私、錦くんと別れることにしたの」

「そ、そうなんだ」

「フミちゃんが関係あるわけじゃないよ? 『面』を演じ続けるのに疲れちゃったんだよね。うん。疲れたんだ……」


 須藤さんが立ち止まった。

 気付いた私も足を止めた。私は須藤さんの数歩前に立つ形になった。


「どうしたの……?」

「フミちゃん」

「う、うん」

「……瓜生フミさん!」

「え、あ、はい……!」

「私と友達になってくれませんか!」


 突然言われたことに私はたじろいだ。


「と、友達……?」

「うん」

「そんなにかしこまらなくても……。いつも通り、話しかけても大丈夫なのに……」

「できないよ。だって私……どう話しかけていいのか分からなかった。いつも考えてたんだ。どうやって関係を直そうか、って……」


 よく見ると須藤さんが緊張しているのが伝わった。呼吸はやや荒く、目に力がこもっていた。須藤さんの私に対する想いを感じ取って、私の心は揺れ動いた。

 普通は壊れた関係って直したくなるものなのか。


「うん。わ、私からも、友達として、よろしくお願いします……」


 私の言葉がよほど嬉しかったのか、須藤さんは私に抱きついてきた。私は抱き返した。

 冬空、陽が落ちる時間は相当に早まった。

 抱き合いながら見る空に夕陽は無かった。いつも通りの、いつもの時間の、いつもの帰り道なのに、夕陽は完全に沈んでいた。


 そんな空を見て、ふと、私は悟った。


 あぁそうか。んだね。


「フミちゃん! 私、ずっと寂しかったよ! ずっとフミちゃんと話したかった!」

「うん……、私も、一緒だよ」


 私はこの時、初めて、ほんの少しだけ、猛烈に、寂しいと思えた。

 君は綺麗な球体だ。

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多面体 あばら🦴 @boroborou

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