【042】訣別

 □多村 弥咲


 あの事件から三年が経過した。

 僕は大学生になっていた。

 今日は休日。僕はある場所に向かっていた。そこに着くと、ゆっくりと目的地に向かっていく。

 そこは、霊園だった。

 ここに来るのは初めてのことだ。

 それまで、どうしても足が遠ざかった。そうしている間に三年が経っていた。その事実に気づいたとき、僕は動いていた。

 墓の前に着く。

 綾瀬奈々花の墓。

 中野は元々、綾瀬奈々瀬の母方の名字だったらしい。井上さん、という警察官から聞いた。

 花が既に添えられてあった。

 誰だろうか……、と考えたけど、すぐにわかった。たぶん、高橋さんだ。

 ……そうか、高橋さんは来てたのか。

 高橋さんとは結局あの事件以降、ろくに会話もしていない。元から会話をするような仲でも無かったので、それがなんだという話なわけだけど。

 僕は掃除をしようと思ったけど、手入れがされていて、これといったこと掃除はなかった。

 墓石に打ち水をして清め、持ってきた花を添えた。

 線香をあげると、手を合わせた。

「……久しぶり」

 僕は、墓石を見ながら言った。

「三年ぶり、かな。ここに来るまで、ずっとうじうじしてたら、時間はあっという間に過ぎてたよ」

 小さく息を吐く。

「あの日、僕がきみに言えなかったことを、今言おうと思う」

 最後の最後まで、言えなかった告白。

 それを今日言おうと決めていた。


「綾瀬。小学校――」


 ――死ね、と人は口にする。

 その言葉を放つ重みを本当に理解しているのか、と僕は問いたい。例えば、この場で死ねと言われたとき、僕が死んだらどうなるのだろうか。僕が死んだ原因はその人にならないのではないだろうか。


「――田中先生殺し、井上さんの失踪――」


 いや、違う。原因は僕だ。

 死ねと言われて、その行動に移したのは僕だ。殺人でも無い限り、僕の行動から起きた結果はすべて僕自身が原因なのだ。


「――いじめ、学校裏サイト――」


 つまるところ、これから語る物語は僕が原因で起きた悲劇だ。


「――合宿の殺し合い、中野奈々花――」


 僕と、彼女と、その周りを巻き込んだ。


「僕は――」


 


 

「――」 



 あの合宿の日、僕の世界は崩れた。

 結局、僕は、独りになるのが、嫌だった。いじめを、救いと感じてしまったように。

 奈々花が、綾瀬奈々花であることも、気づいていた。小学校のときの面影が、あったから。記憶だけは良かった。すぐに思い出した。

 ただ、必死だった。

 僕は、現実から目を逸らすのに。

 自分と、彼女の世界ができていることに、夢を見てしまった。

 夢は、いつか醒める。

 奈々花。僕はきみに救われていた。

 ずっと、一緒にいてくれた。

 僕は、それに依存してしまった。

 僕は自らの意志で、彼女の掌の上に踊ることを選んだ。選んでしまった。

 それも、もう終わりだ。

「――ありがとう、奈々花」

 僕は、きみに救われた。

 僕を人間らしくしてくれてありがとう。

「……また、次の年になったら逢いに行くよ」

 僕はそう言って去っていく。

 ポケットにあった携帯が震えた。

 電話だった。通話を繋げる。

『これから暇? 遊びに行かない?』

 通話を繋げて早々そう言われた。

 僕は苦笑しながら言った。

「うん、わかった。茜音。今行く」

 僕は歩き出した。

 彼女が与えてくれた。

 未来へ。





















































 彼女の掌の上に踊っている(完)

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僕は彼女の掌の上で踊っている 椎名喜咲 @hakoyuto

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