第5話 エピローグ


 ようやく3ヶ月に渡った訓練が終わった。


 気持ちがいいくらいの青空の元、他の仲良し4人と、時間を合わせて茉莉花の

おすすめの外苑前のカフェに集まった。


「ラインアウトおめでとう!!」


「ありがとう」


と、お互いにコーヒーと紅茶で乾杯した。


「みんなが頑張ってるのわかってたから、私も頑張れたよ」

茉莉花が言う。



「私も」「私も」


でも全員に涙はない。あるのは、笑顔だ。

その笑顔には、少し自信が見えている。

みんなの顔つきが変わったな、みんな大人になった、と美織は感じる。


「私は、山本教官の一言で目が覚めた。あのタイミングで山本教官に会ってなかったら、多分私は落ちてたわ」


それを聞いていた茉莉花は、「もしかしたら、美織が伸び悩んでるってグループの幹部たちが知っていて、一番適任な山本教官をあの日のインストにしたんじゃない」


「え、そんなことあるの?」


「やっぱり会社も、採用したからにはちゃんと期間内に一人前になって欲しいじゃん。だから、きっと色んな人たちが情報集めて、伸ばそうとしていると思うよ」


しっかり者の茉莉花らしい推理力だった。


「うん、そうだとしたら嬉しいし、また山本教官と同じフライトになったら、

成長したねって言って欲しい」


「そうだね「うん」「うん」


「これからも仲良しでいてね」


「うん。こちらこそ」

「かんぱーい」


全員で、もう一回乾杯した。


半年後、美織は山本教官が「寿退社」されたことを知った。


直接お礼を言うことも、お祝いの言葉を伝えることもできなかった。

あの後一度もフライトでご一緒することもなかった。


でも、10年経った今美織は、自分と同じく不器用な後輩たちに自分の訓練生時代の話をすることがある。

すると後輩たちは、「横田さんは、絶対に最初から優秀なCAで、ミスなんてしないと思っていました。横田さんもできなかったと知って、元気が出ました。

頑張ります!」と言ってもらえる。


いつまで経ってもあの教えは、色褪せることはない。

私にできるのは、今目の前のお客様を大事にして、いただいたお金以上のものを

お返しすること。


そう思い続けることが、あの美しい教官への恩返しだ。


 耳の下で切り揃えたボブスタイルの髪を揺らしながら、いつもの空港の電車駅へと急いだ。



                           了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しき教え 浅香 凪 @Nagifreetraveller0707

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ