第2話
15歳のバースデーの前日、ドレス工場でのお役目を終えた私は、工場長から、歓楽街の中心地にある宿屋の名が書かれたメモを手渡された。餞別として贈られたヨレヨレの白いドレスが薄汚い欲望で穢されていくまで、そう長い時間はかからないだろうと悟った私は、最期に、あの青年に逢いたいと思った。
「やあ! いらっしゃい!」
青年は、私の顔を見て、にっこり笑った。
「ねえ……私、明日で15歳になるの。そうしたら、『大人の仕事』をしなければならないの」
頬に涙が伝った。私は、この青年に出逢ってしまったことで「希望」を持ってしまったのだ。そんな私を見て、青年は、拙いギターを奏でながら、バースデーソングを歌った。無神経な青年に憤りを感じた私は、青年からギターを奪い、地面に叩きつけた。
「私にとって、『バースデー』は忌々しい日なの! バカにしないでっ!」
私が、人前で感情を露わにするのは生まれて初めてのことだった。
「俺と一緒に、この町を出よう! これからは、今日を『俺たちふたりのバースデー』にしよう!」
「えっ? だって、アンタには、本当の誕生日があるんでしょう?」
「俺も孤児なんだ……この町の生まれではないけれど。だから、誕生日はないんだ」
こうして、私たちは、手に手を取り合って、この閉塞的な町を飛び出した。
不思議と、何も怖くはなかった。
了
Alice In Closed Town 喜島 塔 @sadaharu1031
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