Alice In Closed Town
喜島 塔
第1話
「ねえ、アリス、モニカが工場長相手にブチ切れたって話きいた?」
ケイティが、縫い上がったドレスをボックスに放り込みながら訊いてきた。
「ええ。15歳の誕生日を迎えるモニカの前で、工場長がバースデーソングを歌ったんでしょう?」
「ひどいわよねえ。私たちにとって、『バースデー』ほど忌々しい日はないって知ってるくせにね」
***
私は、「
私は、この町で働く大人の女たちが、「仕事」の時に身に纏う、ぺらっぺらの安物のドレスを作る工場で働いている。大人の女たちが、そのドレスを身に纏いどんな仕事をさせられるのかは知っている。想像しただけで吐き気がする。
工場での仕事を終え家へ向かう道すがら、拙いアコースティックギターに乗せた歌声が聴こえてきた。気付けば、私は、音の主である青年の前で彼の歌に聴き入っていた。特に歌が上手いわけではない。ただ、その、希望に満ち溢れた歌声が鬱陶しく、そして、羨ましかったのだ。その日から、私は、仕事帰りに青年の歌を聴きに行き、会話をすることが日課となっていた。
「ねえ、あなた余所者でしょう? どうして、こんな町に来たの? この町が何て呼ばれているか知ってて来たの?」
「知ってるよ」
「ふうん。アンタ、相当物好きね。目的は何? 私たちを冷やかしに来たの?」
「そんなんじゃないよ。俺は、この町の人たちに希望をあげたくて来たんだ」
「正直、そういうの気持ち悪いわ。私たちの心はこの世に産み落とされた時から死んでいるのよ。希望をあげたいだなんて、おこがましいわ!」
「うん……そうなんだろうね。それでも、君は、こうして、毎日俺の歌を聴きに来てくれるじゃないか」
青年が紡いだ言葉が、私の心にひっかき傷をつけた。
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