Alice In Closed Town

喜島 塔

第1話

「ねえ、アリス、モニカが工場長相手にブチ切れたって話きいた?」


 ケイティが、縫い上がったドレスをボックスに放り込みながら訊いてきた。


「ええ。15歳の誕生日を迎えるモニカの前で、工場長がバースデーソングを歌ったんでしょう?」


「ひどいわよねえ。私たちにとって、『バースデー』ほど忌々しい日はないって知ってるくせにね」

 

***

 私は、「枯死こしの町」と呼ばれる、掃き溜めのような町で15年近く生きている。この町で暮らす人間は例外なく孤児で、皆、この町でひとつしかない孤児院で10歳のバースデー、すなわち、「天使の芥場ごもくば」に捨てられた日に施設を追い出され、15歳のバースデーの前日まで町工場で働かせられる。その後、男子は過酷な肉体労働を強いられ、女子は女の色香を売る仕事を強いられる。


 私は、この町で働く大人の女たちが、「仕事」の時に身に纏う、ぺらっぺらの安物のドレスを作る工場で働いている。大人の女たちが、そのドレスを身に纏いどんな仕事をさせられるのかは知っている。想像しただけで吐き気がする。


 工場での仕事を終え家へ向かう道すがら、拙いアコースティックギターに乗せた歌声が聴こえてきた。気付けば、私は、音の主である青年の前で彼の歌に聴き入っていた。特に歌が上手いわけではない。ただ、その、希望に満ち溢れた歌声が鬱陶しく、そして、羨ましかったのだ。その日から、私は、仕事帰りに青年の歌を聴きに行き、会話をすることが日課となっていた。


「ねえ、あなた余所者でしょう? どうして、こんな町に来たの? この町が何て呼ばれているか知ってて来たの?」

「知ってるよ」

「ふうん。アンタ、相当物好きね。目的は何? 私たちを冷やかしに来たの?」

「そんなんじゃないよ。俺は、この町の人たちに希望をあげたくて来たんだ」

「正直、そういうの気持ち悪いわ。私たちの心はこの世に産み落とされた時から死んでいるのよ。希望をあげたいだなんて、おこがましいわ!」

「うん……そうなんだろうね。それでも、君は、こうして、毎日俺の歌を聴きに来てくれるじゃないか」


 青年が紡いだ言葉が、私の心にひっかき傷をつけた。

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