秘密を打ち明けた後、二人は……
賑やかな曲が終わり、それまで曲に合わせて点滅を繰り返していたライトは、今は穏やかな光をたたえ、公園全体を色とりどりに照らしている。
浅井はごくりと唾をのみこんでから、アンナの顔を見た。
気配を感じて、アンナも顔を上げる。
「アンナさん。……今日はどうしても、貴女に伝えたいことがあって……」
「まぁ、健さん。
私たち、やっぱり気が合うわね。
実は私も、貴方に伝えたいことがあるの」
目を丸めながら言うアンナに、浅井は一瞬驚いたようだが、直ぐに柔和な笑みを浮かべた。
「それなら、君から話して?」
「良いの? それじゃぁ、その……貴方を嫌な気分にさせてしまうかもしれないけど、話すわね」
浅井は、アンナの目を見て、しっかりと頷いた。
「実は、私、ちょっとファザコンの気があって」
「ああ。素敵なお父様だものね」
「ありがとう。そうなの。
それでね、昔から私、その……父に似た薄毛の人に色気を感じてしまう傾向があるの。
初めて貴方に会った時、その……そりこみのあたりが凄くセクシーで。
でも、それはストレスによるものだったのかしら。最近は、すっかり解消されて……」
無性に気恥ずかしくて、アンナは顔を俯けていたが、そこまで話して、こっそりと浅井の顔を覗き込んだ。
浅井はぽかんと口を開いて、呆けた顔をしている。
あきれられていると思い、アンナは慌てて、次の言葉を繋いだ。
「だからと言って、どうこうして欲しいと言うわけではないのよ?貴方のことは大好きだし。
だから、その、ね。
日本の男性は、そういうの、凄く気にするみたいだけど、貴方がもし、そうなることがあったとしたら、そのままでいてほしくて」
一瞬の沈黙の後、浅井は声を出して笑った。
意味が分からず、もしやバカにされているのかと、アンナが不安になった時、何とか笑いをおさめて浅井は顔を上げた。
「ああ、ごめんね。アンナさんの事を笑ったわけじゃないんだよ。
一人でジタバタしていた自分が、あまりに滑稽でね」
浅井は、繋いでいない方の手で髪をかき上げ、その動きのまま、頭の上に乗せていた物を外した。
「これが、今日、僕が君に話したかったこと。
君に似合う男になりたくて、一生懸命努力したのだけど、病院に行っても市販薬を試しても、もう減る一方でさ」
アンナは両手で口元を押さえた。
「一番格好つけたかった君に、こんなことをいうのは恥ずかしかったけど、育毛やカツラなんかより、君とのこれからに、もっとお金を使いたいと思ったんだ」
そう言って、浅井はポケットからリングケースを取り出した。
「こんな僕で良かったら、結婚して下さい」
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
アンナの潤んだ瞳は、イルミネーションの光を受けて、キラキラと輝いている。
その時、しっとりとした曲がかかり、ライトは再び明滅を始めた。
光の渦の中、二人はしっかりと抱きしめあった。
幸せそうに佇むカップル 二人には秘密がある 丸山 令 @Raym
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