幸せそうに佇むカップル 二人には秘密がある
丸山 令
今夜、秘密を打ち明ける
ここに一組のカップルがいる。
星を散りばめたような幻想的なイルミネーションの中、しっかりと手を繋いで歩く二人の姿は、どこから見ても幸せそうだ。
公園全体を見渡せるテラスまでやってくると、二人はどちらからともなく足をとめた。
アップテンポな曲が流れだし、それに連動して、園内を彩る電飾が、チカチカと明滅を始める。
近年流行りのサウンドイルミネーション。
二人は、息をのんで、その美しい煌めきに酔いしれていた。
⭐︎
男の名は、浅井
大手企業会計職勤務、二十九歳。
彼には、彼女に話していない秘密がある。
二人が知り合ったのは、結婚式の二次会の時のこと。
新婦の友人として会に参加していた彼女、アンナは、日本人離れしたホリの深い顔立ちの美女だった。
参加していた新郎の友人席が浮き足立つ中、アンナは徐に浅井の席の横に座り、声をかけてきたのである。
それまで彼女いない歴イコール年齢だった浅井は、ガチガチに緊張してしまい、しどろもどろな会話しかできなかった。
翌日。
つまらない男と思われただろうと、凹んでいた浅井の元に、アンナからメールが届いた。
そこから二人の交流が始まり、今年の春、浅井の告白をアンナが受け入れて、めでたく付き合うことになったのである。
浅井は頑張った。
美しい彼女の横に立つためには、見苦しい格好は出来ない。
背丈だけはそこそこあるが、容姿が整っている方とはお世辞にも言えない自分に、浅井は全く自信が無かった。
(せめて、それなりに見えるように……)
この歳になって、部活以降ご無沙汰だった走り込みを始めた。
ジムにも通った。
服飾に詳しい職場の同僚から、ファッションについて情報を貰った。
ここのところ気になり始めた問題にも、果敢に挑んで抗った。様々な方法を模索した。
しかし、どれだけ努力しても、その問題だけは解決出来そうもない。
何とか誤魔化そうと高い買い物までしてみたが、アンナを騙し続けることが、どうにも心苦しかった。
浅井は今晩、それをアンナに打ち明けるつもりだ。
この先、二人で幸せになるために、この秘密の開示は避けて通れないものと、浅井は考えていたから。
(このことを話したら、もしかしたら振られるかもしれない。
でも、もし、受け入れてくれたなら、僕は、今日、君に……!)
浅井は、繋いでいない方の手で、ポケットの中にしまったケースをそっと撫でた。
⭐︎
女の名は、中本アンナ。
輸入雑貨バイヤー、二十八歳。
彼女にもまた、彼に話していない秘密がある。
アンナは、スペイン人の父と日本人の母を持つ、いわゆるハーフであった。
彼女は幼少期、大層なお父さん子で、『結婚するならば、父のような……』と、常々考えていた。
浅井と初めて出会ったとき、アンナの心はときめいた。
(ああ、理想的だわ。
背が高くて、それにお父さんに似ている。
男らしくて、素敵)
そこからは、全力でアプローチをしかけた。
浅井は気弱なところはあるが、物静かで優しくて、包容力がある。
そんな彼を、アンナは益々好きになった。
そして、春。
普段は穏やかな彼の、決意を込めた告白にときめいて、いよいよ交際開始。
今日まで、順調に仲を深めてきた。
(でも、最近何だか……あれは、ストレスによる一過性のものだったのかな?)
アンナには、堂々と人に言えないフェチがあった。
スペインにいる友人には、比較的受け入れられるのだが、以前日本の友人にそのことを話した時、盛大に笑われてしまったので、彼女はそれを秘密にしていた。
(今では、彼の全てを愛おしく感じている。
でも、時が過ぎて冷静になった時、それを持たない彼を、私は愛し続けられるかしら……)
彼女は不安を感じていた。
そして今日。特別な夜。
緊張した面持ちでアンナを見つめている浅井に、アンナは打ち明ける覚悟を決めた。
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