第8話

「1で」


「うん」


 真祖の剣が赤く光り、琥竜へ高速の五連撃が繰り出される。


「5」


 耳元で数字を言う声が聞こえ、槍に変更したメリィちゃんが間髪入れずに琥竜へと攻撃を入れノックバック。


「2」


 技後硬直デュレイがとけて直ぐに斬り上げからの斬り下げてからの渾身の突き。この時点で、ボスの残りHPバーは三割。


「フィニッシュ」


「タイマーストップ」


 槍の奥義である八連撃が見事に決まり、琥竜はその体をポリゴン状に爆散させる。


 怯み連携コンボチェイン。複数の人間がボスに攻撃をさせないように、大技で相手をひるませるように連携をとる技術。簡単に言うならずっと俺のターン!ってこと。大技にはクールタイムがあるから、こうして一気に決め切れる時に使う。


 それと、途中で呟いた数字は、俺達がまだキーボードで連携を取っていた時の名残で、きちんと意味がある。1だったら、『全部削るつもりでいるけど、無理そうだったら素直に諦め』とかまぁそんな感じ。


 パンっ!と『Congratulation!!』の文字が出ると、画面内にいる棒人間がハイタッチを決めた。それを見て、ふぃーと口の中に溜まっていた息を吐き出す。


「お疲れ様、タイムは?」


「40分37秒。アプデ前の最速タイムより七分早い」


 早くなったことには早くなった。他の超高難易度の平均クリアタイムが41分程度なので、調整は上手くいったようだ。


「うん、丁度いい難易度だったな」


 適度に難しく、それなりの時間で楽しめるダンジョンになった。これでクリア者ももっと多く現れるだろ。


「丁度いいというより、前回が難しすぎたんだよ~。初めてだよ?クエストクリアして机にもたれかかったの」


「俺も」


 手汗もえぐかったしな、あの時は。もう二度とやりたくない。


 クエスト報酬のログを眺める。大量の経験値と、金、ドロップアイテムに………ん?


「なんだこれ……?」


「どうしたの?」


「いや……なんか、変なのがある」


 大量のドロップアイテムに紛れ込む、異質な『???』の文字列。そのことに頭をひねらせる。


「変なの?」


「うん。ドロップアイテム一覧にさ、???で表記されているのがあるんだよな。そっちにはある?」


「ちょっと待ってね」


 一瞬メリィちゃんが黙りこみ、直ぐに「こっちには無いよ」と答えてくれた。


「……バグか?」


 とりあえず、運営に報告しておくか。メニュー欄を開き、運営へのお問い合わせにこの事と、証拠スクショをアップロードしてから送信。


 スティックヒューマン・オンラインは、バグとか不具合報告とかがやり易いから本当に助かる。


「みぃくん、まだやる?」


「当然」


 まだまだ時計の針は12時を回ったばっかりである。夜はまだまだここから。なんなら今から本番みたいなもんだろ?


「とりあえずこれから────お、丁度いいタイミングで緊急レイドが来たな」


 クエスト名は、『怒れる大地の咆哮』。キラーベヒモスの討伐クエストだな。


「行く?」


「せっかくだし行こうか」


 別名殺人猪。こいつの図体はめちゃくちゃデカく、名前にキラーとあるように、攻撃を一発喰らったら、どんなに装備をカチカチにしようが即死するのが特徴だ。


「何人くらいくるかな」


「今はメンテ後だから血気盛んなプレイヤーがが来るんじゃないか?あと、あいつ色んなプレイヤーから恨み買ってるから」


 どれだけレベル上げても一発で死ぬからな。こいつのヘイトは結構高い。


「それじゃあ行こ!」


「了解!」


 この後、めちゃくちゃゲームした。


 ちなみにだが、あのアイテム表記はどうやらバグでは無いらしく、仕様とのこと。


 運営から、『おめでとうございます!発表まで楽しみに待っててください!』と連絡が来たんだが……一体なんなんだ?

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声しか知らないお嫁さんRe:start 結月アオバ @YuzukiAoba

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