第7話
耳元で、楽しそうに声を上げるメリィちゃんの声を聞くと、自然と笑みが浮かぶ。
「最初、何行く?」
「分かってるでしょ?もちろん、琥竜で」
だよね。聞くだけ無駄だったか。
「頑張ろうね」
「うん!頑張ろっ、みぃくん!」
「………………」
ぶねっ!急な破壊力のある可愛い声に一瞬意識を持っていかれた。メリィちゃん、恐ろしい子……。
メニューを開き、マップから琥竜の雄叫びクエの場所へ転移をする。フィールドに入るとと同時に、この前のクリア報酬として手に入れた、最高ランクの武器『琥竜の杖』が自動的に装備される。
………それにしても、あれだな。
「このゲーム、ホント棒人間以外には力入ってるな……」
改めて思う。なぜ棒人間にしたのか。いや、そういうコンセプトだから仕方ないと思うけど……普通にキャラクリの方が良くない?こんな技術あるなら。
「ほんとだよね。これ、絶対棒人間じゃなくても人気出たよ」
「ほんとそれ。なんならもっと人気出てたよ思うよ」
グラフィックえぐいし、ラグないし、ストレスフリーでできるゲームをこれ以外知らない。
……いや、棒人間だから周りに力を入れることが出来たのか?
アイテム欄を開いて、フィールド移動用のライドアニマルを呼び出す笛を選択して使用。
ピィー!と音が響き、どこからともなくカッコイイ馬が現れる。ちなみに、名前は『ナ〇タブラリアン』な。
純白の馬が現れ、そしてそれに乗る棒人間────だせぇ。果てしなくだせぇ。
「……ねぇ、やっぱこれ苦情入れない?」
「無理でしょ。今まで何人のスティックゲーマーが入れてるか」
ちなみに、一回だけ俺も運営に苦情を送ったことがある。まぁ暖簾に腕押しだったけどね。
ほんと、どれだけ棒人間に力入れてるんだよ……いやまぁそういうコンセプトなんだろうけど!!
「………あれ、簡単……だな?」
「うん、簡単……だね」
結果的に言うと、琥竜クエはかなり(俺達にとって)簡単なクエストになっていた。
このクエストは、ラスボスである琥竜と戦う前に、中ボスである恐竜と三回戦う必要があり、その中の隠しギミックとして、この三体の討伐時間が30分以内を達成というものがある。
これをクリアすると、ラスボスの防御力が30パーセント低下し、かなり攻撃が通りやすくなるのだが、これが達成しやすくなっていた。
中ボス達のHPや防御力も軒並み下がり、更には40分まで時間が延長された。一撃で三割HP持って行った時はちょっとビビった。
それと、道中のザコ敵もかなり減っていたり、攻撃前の溜めモーションとかも分かりやすくなっていたりと、確かな難易度低下を感じられた。まぁ、それでも一歩間違えたら即死なんですけどね。
「右、左の噛み付き」
「うん」
琥竜が頭を上にあげ、そこから超高速の時間差噛みつき攻撃。これも、前はもっと攻撃のおこりが小さく、見分けも難しかった。
メリィちゃんは、俺の指示に軽く返事をするとタワーシールドでしっかりとジャストガード。
その隙を見逃さず、すぐさま攻撃魔法を三連続で決めていく。みるみるうちにHPバーが減っていく。
「スイッチ!」
「あいよ」
シールドバッシュでひるんだのを確認しながら、高速でメニューを開いてステータス画面を表示。そこで、装備を保存している欄を開いてから、アタッカー01と書かれているボタンをポチッとな。
琥竜の杖が消え、代わりに『真祖の剣』が姿を表す。
スティックヒューマン・オンラインの必須プレイヤースキル、
棒人ゲーは、前も言った通りに完全レベル制である。多くのオンラインゲームである、職業毎にレベルが違うシステムではなく、全部が共通だ。
上級者になればなるほど、使いこなせる武器は増え、場面場面で求められる最適な武器を選んでいかなければならない。このバトルスイッチを使いこなせるか否かが、中級者と上級者の境目だ。目標は、大体2~3秒くらいかな。
だが、俺とメリィちゃんはその中でも異色。他の上級者は余裕で全武器を扱えるくらいはマスターしているのに対し、俺たちは二種類だけ。俺が杖と剣、メリィちゃんが盾と槍。双棒って言う二つ名は、そこからも来ているのかもしれないな。
個人的にはめちゃくちゃ横文字が良かったですけどね。2にこだわるのならもっとあったでしょ。デュアル○○みたいな感じでもっと頑張って欲しかった。
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