最終話


 そして、駐屯地を出て、車に乗り込もうとしたとき。

「レイ!」

 おじさんに大きな声で名前を呼ばれて、振り向いた。


 おじさんは、顔をくしゃくしゃにして叫んだ。


「レイ! おまえは……おまえは、間違いなく俺の中のナンバーワンだ! 今までよく頑張った! 達者でな!」


 ――おじさん……おじさんっ!


 僕は我慢できなくなって、大きくしっぽを振り回しながらおじさんに飛びついた。


「レイ! こら、この甘えん坊め」

「わんっ! わんっ!」


 笑いながら目元を押えるおじさんを見て、そのにおいを嗅いで、ようやく気付く。


 ――あぁ。

 僕は、なんて幸せだったんだろう。まひるちゃんや、パパやママを失ったあの日から、ずっとひとりぼっちだと思っていた。

 けれど、違ったんだ。

 僕はずっと、ひとりじゃなかった。おじさんがずっと僕の居場所になってくれていたんだ。

 おじさんだけじゃない。ほかにも、いろんなひとに助けられて、ここまで生きてきたんだ……。

 今さらになって気が付くなんて。

 ねぇ、おじさん、まひるちゃん、パパ、ママ。

 安心して。

 僕はこれからもちゃんと生きるよ。

 僕を家族に迎えてくれたひとたちが、もう泣かなくて済むように。笑っていられるように。

 いつかお迎えが来るその日まで、必ず守りきるからさ。

 だから心配しないでね。


 青々とした真昼の空に君を想いながら、僕は一度だけ、「わん」と泣いた。

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僕のわんだふる物語 朱宮あめ @Ran-U

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