似合いな二人 ~わたしの秘密~

神在月ユウ

わたしの秘密

 鏡の前で、黒のフレアスカートを履いてくるりと回る。


かおる、早く見せてよ」


 カーテンを隔てた試着室の外で、彼のハスキーボイスが尋ねる。


「じゃーん、どう? はやて君」


 カーテンを開けて、先ほどと同じようにくるりと回る。

 肩にかかる内巻きの髪がふわりと揺れる。


「うん、すごく似合ってる」

「さっきのプリーツでも同じこと言ってたー」

「え?そうだった?ごめんね、薫は何でも似合うからさ」

「もう…!」


 わたしは頬を膨らませ、朗らかに笑う彼に唇を尖らせる。

 本当は嬉しくてしょうがないけど、素直に照れてしまうと彼はわたしをからかうのがわかりきっているので、あくまで怒っているポーズを取る。


 長い買い物に付き合ってくれる彼が好き。

 彼の笑った顔が好き。

 彼のハスキーな声が好き。

 時々見せるキリっとした目つきが好き。


 好きなところを上げていけばキリがない。

 彼なしではもう生きていけないと思えるくらい、わたしにとって大きな存在になっている。


 それでも、不意に胸が痛くなる。


 わたし、小野山薫おのやまかおるは恋人に隠し事をしている。

 どうしても言えない、でも、いつかは言わなければならない秘密。


 わたしは、戸籍上は男。

 服の下の、この体は、男。

 

 その事実を、ずっと隠して彼と付き合っている。


 昔から、女の子の格好をするのが好きだった。

 女の子との触れ合いよりも、男の子とのそれの方が、ドキドキする。

 

 母親からは気持ち悪いと言われ、父親から病院に行けと言われた。


 だから、実家にいたころは男の格好をして、大学に通うために一人暮らしを始めたときに、自分が着たい服を着ることができた。

 もともと女っぽい顔立ちで、背丈も158センチ。狭い肩幅や髪型も相まって、同級生にはバレていないと思う。


 彼とは大学で出会った。

 20歳のわたしにできた初めての彼氏。

 彼と付き合い始めて三カ月、まだその事実を告げられていない。


 告げたら最後、彼との関係が崩れてしまうから。







    *    *    *






 俺の名は大迫颯おおさこはやて

 俺の恋人は、かわいい。

 

 笑った顔、サイコー。

 ちょっと上目遣い、たまらない。

 照れた顔、どきっとする。

 服のセンスがすごくかわいらしい。


 

 そんな俺にも、少し不満がある。


 いや、不満というのも違うか。


 そろそろ、関係を『次のステップ』に進めたい。


 それとなく誘っても、かわされてしまう。


 どうしたらいいだろうかと、最近よく悩んでいる。


 

 あ、そうそう、忘れていた。

 恋人の、すごくかわいいと思うポイント。



 男だってバレないように、必死に隠しているところかな。

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