妖狐と少女

黒糖飴

第1話

嗚呼、嘘吐き。


目の前に迫る真紅の瞳を見て。


目を閉じた。





ふさふさの9つの尻尾に、絶え間なくピクピクと動く耳。長い爪。僕は、妖狐だ。狐というと、ずるくて賢いイメージがあるかもしれないが、僕は賢くても、とても優しい狐だ。


だって、目の前にいる血だらけの、、、血だらけの、、、、人間なのか妖なのかわからない、得体のしれない娘を助けようか迷っているのだから。


妖狐には、傷を回復する力があるのだが、此奴が妖だとすると、妖力を制御している手練かもしれない。とりあえず回復はさせず、僕の家に連れて帰ろうか。


いいや、やっぱり人間かもしれない。とても無防備だ。


僕は、もう長く何も喰っていない。死ぬことはないが、時折人間を食べなければ弱ってしまう。

妖だとしても、喰えば妖力を吸収して、強くなれる。


「決めた。この場で喰おう。」


そう、宣言して、僕はその娘に馬乗りになり、口を開け、牙を立てる。


「ん?重い、、」


その娘が喋った。なんてタイミングだ。

僕は後ろに飛び退く。


「え!狐!!!」


そう、言って、立ちあがろうとして、もがいている。


「なんで!?私の脚、動かない、、!」


驚いた。脚が動かなくなっていたとは。少しだけ、同情する。


相手が動けないとわかった僕は、ゆっくり、警戒しながらも少女に近づいていく。


「狐、さん。私を食べてしまうの?」

そう、少女は少し涙ぐみながら言う。


「どうしてそう思うの?」


僕が聞く。


「小さい頃、誰だったか、、言われたの。人間に耳と尻尾が生えたような、狐の妖は、人間を食べてしまうのだよ、って。」


「僕は、君のこと食べないよ。助けようと思っただけさ。」


大嘘である。僕は君を食べようとしていたし、なんなら今も、脚が動かないのは都合がいいとか思っているよ。僕は優しいけど、妖の本能には抗えない。生きていくために、強くなるために、必要なことなんだ。


「本当!よかった。」


でも、そう言って純粋に笑っている君をいますぐ食べてしまうほど、僕は理性がないわけではない。一旦、家に連れて帰ろう。傷は治さずに。


僕は、少女を抱き上げた。


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妖狐と少女 黒糖飴 @velociraptor

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