私の本当の気持ちは……

気が付いたら、もう2時間以上経過していた。

ナオコにとって、他人とこんなに長く話していたのは初めてかもしれなかった。


「すっかり長居しちゃったね。そろそろいこっか」

「はい、今日はありがとうございました」

「ナオコ、他人行儀じゃなくていいよ。気取らずに、ね」

「わかった……」

たったの数時間でフランクに話せるようになろうとは、誰も思わなかっただろう。

「じゃあ私はこれで……」

「折角仲良くなったんだから、もうちょっと付き合ってよ。とりまカラオケでも」

(カラオケかぁ……)

カラオケなんていつ以来だろ?何かの打ち上げで強制参加させられて以来か。

その時でも1曲ぐらいしか歌わなかった気がするが。


「二人だから2時間ぐらいでいいよね?レッツシンギング!」

気が付いたらいつの間にかカラオケ店の中にいた。

私の意志は?と聞いても無駄だろうなぁ。

シズカに手を引っ張られて部屋の中に入っていった。

「2時間だからジャンジャン歌うよぉ。ナオコもドンドン入れてね♡」

「……」

さてさて困ったなぁ。歌える歌は限られているけど、殆どがアニソン。

でもアニオタ趣味はまだ秘密にしていたい。曝け出したくなかった。

(困った時は懐メロだけど、多分知らない歌だろうし)

どうしようかと考えている間にも、シズカはどんどん曲を入れている。

自分には馴染みのない曲ばかりだけど、多分令和発売の曲だろうと思う。

シズカは流石に歌い慣れているようで、高音も安定していて普通に上手い。


とりあえず入れてみたのは、中森明菜の「セカンドラブ」。

「歌姫」のアルバムを偶然聴いて以来、その歌声に聴き惚れてきた。

そんな彼女の初期の曲だが、しみじみとした感じが好きだった。


(……)

シズカは初めて聴くナオコの歌声に夢中になっていた。

贔屓目にいってもナオコの歌唱力は素晴らしいものがあった。

感情が込められていて、ナオコの歌の世界に引き込まれそうだった。

演奏が終わったら、シズカは大袈裟なくらいに拍手をしたのだった。


「ナオコ、歌うま過ぎ。サユリとマリナにも聴かせなきゃ」

「それ大袈裟。久しぶりに人前で歌ったから恥ずかしいよ」

そう言っているが、実は満更でもなかった。

褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しかった。


「ねぇ、もっとナオコの歌、聴きたいな。どんな曲でもいいから」

シズカのリクエストに答えようと思うけど、さてどうしようかな?

仕方ない、困った時に歌う曲にするか。

古めの曲だけど、石川セリの「ムーンライト・サーファー」。

あの井上陽水の奥さんの隠れた名曲。

まるで夕暮れから夜にかけての海を思い起こさせる、そんな曲。


(……)

またしてもナオコの歌声に集中しているシズカ。

「ヤバイ。聴いた事ない曲だったけど、凄くいい。

もうナオコの歌のファンになりそう。今度はデュエットしない?」

「一緒に歌える歌、あるかな?」

歌のジャンルにズレがあるから、一緒に歌える歌はないだろうなと思えた。

しかし、シズカの提案にナオコが頷いた。

「凄く流行った『アイドル』って歌える?」

良かった。YOASOBIの『アイドル』ならアニソンでよく知っている。

それどころかブレイクする前からアニメのOP見て好きだったし、

YoutubeのMVは、何度見たかわからないくらいだ。

「それじゃいくよ!」

大きなモニターに見慣れた映像が映し出される。

二人はノリノリで歌いきったのだった。



「ナオコ、ノリノリの歌もいけるじゃん。上手い、上手い」

「シズカの方こそ上手だったよ。ずいぶん慣れている感じ」

「いやいや、ナオコの方こそ難しいとこもちゃんと歌えてたし、

絶対何か秘密あるじゃないの?」

「別に秘密はないよ。強いて言えばよくライブ観に行ったりするくらいかな?」

流石にアニメのイベントライブが殆どとか言えなかったけれど。

「へぇ、どんなライブを観に行くの?気になるなぁ?」

うわぁ、その上目遣いはダメだ。何も出来なくなる。

「えっと、ユッコ・ミラーとかいいんじゃない?今度見に行く予定だし」

とっさに思いついたのが、コスプレしてアニソンを演奏したりして動画を上げてる

サックスプレイヤーのユッコ・ミラー。

『アイドル』も演奏していてよく見ていたっけ。

ちなみにライブは普通に硬派なジャズやっているけど。

「ナオコのお勧めなら観たいな。ねぇ、一緒に行ってもいい?」

「うん、それはいいけどジャズだよ。それでも観たいの?」

「そりゃあもう、って、あれ?」


シズカはナオコに近づこうとした時、足が縺れてバランスを崩してしまう。

そのままナオコの胸を目がけて倒れこんでしまった。

シズカの華奢だけどメリハリのついた体を感じると共に、広がっていく甘い香り。

そして、「ドジっちゃった、ゴメンね」と舌を出すシズカ。

こんなの、あざとかわいすぎるだろ、

反則だろ、と顔を真っ赤にするナオコ。

これを男に対してやったら、絶対イチコロだろうな。


いつの間にか時間になっていたので、二人はカラオケ店を後にした。

今日はこのくらいにして、また今度会おうとシズカに念を押された。

「次はサユリとマリナとも一緒に楽しもうね♡」

可愛らしい笑顔を見せてシズカは去っていった。

まるで小悪魔みたいだとナオコは思うのだった。


(シズカと仲良くなれるなんて夢みたい)

ナオコは家に帰ってからもボーっとしていた。

これからもシズカと仲良くなれればいいと思っているし、

何よりカラオケ店でのハプニングで必要以上に密着できたのも嬉しかった。

(サユリさんとマリナさんも素敵な人だし、これからが楽しみ)

実はナオコには、アニメオタクであるという秘密の他にも秘密があった。

寧ろこちらの秘密の方が知られては困る事だ。


ナオコは、男よりも美少女的な可愛い女性の方が好きだという事を……。



















「ねぇ、目標に接触してみてどうだった?見込みありそう?」

「思っていた以上だったよ。ちょっと引っ込み思案な感じだけど、

素材としては一級品だよ。化粧だけでも化けそう。後は度胸があればね」

「おどおどしているのは、ちょっと自信をつけさせればいい。

スタイルとかはどうなの?」

「あれは着痩せするタイプだね。じっくりは確かめられなかったけど、

いいプロポーションしてる」

「かわいい衣装、似合うといいけどな。やりがいありそう」

「まずは仲間に入れる所からね。大丈夫だと思うけど、逃さないでね」

「今日見た感じだと、スムースに行くと思うよ。それに……」

「それに?」

「あの娘、私と同じ匂いがすると思う。

だから終わってからのお楽しみも期待していいかも♡」

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陰キャな私が何故か陽キャの仲間にされた件。私、そんなにスペック高くないよ。 榊琉那@屋根の上の猫部 @4574

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