算数の文章問題には秘密を一つ隠して 1

独立国家の作り方

第1話 僕のお嫁さん

問 題

 『吾郎君は毎月50円のお小遣いをもらっています。

 お隣の優しいお姉さんは、家の借金のために、明日家を出ることになりました。

 吾郎君は何年貯金をすれば、お姉さんは家を出なくて済むようになるでしょう。』


 僕はお姉さんを引き留めるには、どうしたら良いのか真剣に考えてていた。

 いつも優しく、独りぼっちの僕にとって、本当のお姉さんのような存在。

 年は10歳くらい離れていると思うけど、僕は本気で将来、お姉さんをお嫁さんにしたいと思っている。

 どのような事情でお姉さんは家を出るのか、僕には解らない、でも、お金に困ってのことであることはたしかで、子供の僕にはどうしようもないことだけは理解できていた。


 そして、僕はついに、お姉さんの手を取って、走り出した


 駆け落ちだ!、もうこれしかない。


 本気だった。

 今の僕が、お姉さんを助け出すには、今日やるしかなかった。

 最初は冗談だと思ったのか、お姉さんは笑って僕に付いてきてくれたけど、それが本気だと気付くと、今度は逆に悲しそうな表情で涙を流し始めた。

 

「ごめんなさい、痛かった?」


「違うの、、、嬉しくて」


 僕は、なんだか急に大人の男になったように誇らしかった。

 でも、小学生の男子児童が出来るのはそこまで。

 お金もない、プランもない。

 本当に自分が嫌になる。

 だから、今僕が出来る全部を、お姉さんにしてあげたかった。



 だから、、、僕は思い切って、お姉さんに結婚を申し込んだ。

 


 お姉さんは、とても喜んでくれた、また涙を流しながら。

 僕は誓った。

 どんなに遠く離れ離れになっても、お姉さんを迎えに行くって。

 僕は泣かなかった、男だから、お姉さんを守れる大人の男になるために、もう泣いている余裕なんてない。

 それは小学生だった僕の、最初で最後の冒険だったんだ。


 

 開業医だった父の跡を継ぐ形で、僕は医者になっていた。


 お姉さんの所在が判明したのは、つい数か月前

 ようやくお姉さんを見つけた時、彼女の意識は既に無く、ずっと寝たきりだった。

 店側も困り果てていたところに、僕が現れたという訳だ。


 連絡を取ろうにも、彼女の家族は既に行方を晦まして音信不通だ。


 僕はお姉さんに、毎日他愛の無いことを話しかけた、それが僕の日課でもある。



「お姉さん、僕ね、お母さんがずっといなかったんだ、だからお姉さんは僕にとって姉であり母であり妻でもあるんだ、僕は欲張りだね」



「お姉さん、僕にね、今日縁談の話が来たんだ。お父さんも解ってるんだと思う、僕がこのままじゃいけないってこと。でも僕には君がいる、君が」



「姉さん、私はね、今日県の医師会から、会長職を依頼されたんだ。受けようと思う。姉さんが目覚めた時には、会長の妻になっているよ、姉さんは喜んでくれるかな」



 私は、姉さんの姿が、いつまでも変わらず美しいと思いながら、この何も語らない彼女に、毎日語り掛け続けた。

 そして、ある日気付いたのだ、彼女の容姿は、あまりにも変わらなすぎるという事に。

 友人の医師にこのことを相談してみた。

 友人は、姉さんに会ってみたいというので、会わせることとなった。


「吾郎、君の話が本当なら、彼女はもう60歳近いことになるよな。君は今までどうしてこれを異常だと思わなかったんだ?」


 友人がそういうのも無理はなかった、なぜなら彼女の容姿は、20歳半ばの美しさを保ったままだったからだ。

 友人に言われるまで、随分若く見える、程度にしか考えていなかったが、これは大発見だ。

 何が大発見かと言えば、彼女の若さの秘密を解明できれば、私自身も若返り、彼女の失った数十年を、無かったことに出来るのでは、と考えたからだった。



 更に十年が過ぎた頃、彼女の年を取らないメカニズムが解明され、あと数日で彼女が目覚めることとなった。

 この時代、医療の進歩はすさまじく、彼女の遺伝子解明も手伝って、彼女の原因不明だった意識不明状態は完全解明された。

 私の老化は、期待したほど戻ることは無かったが、初老の年齢となった私でも、頑張れば少しは若作り出来る程度にまで戻っていた。


 彼女が目覚めたら、一体何から話そうか。

 きっと驚くと思うが、必ず幸せにしてみせる。

 



算数問題

 『吾郎君は毎月50円のお小遣いをもらっています。

 お隣のお姉さんは、家の借金のために、明日家を出ることになりました。

 吾郎君は何年貯金をすれば、お姉さんは家を出なくて済むようになるでしょう。』


答え:45年

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