エピローグ

秋マーケット

 11月の最初の日曜日。調布市の由緒ある神社で秋マーケットが開催されている。気持ちの良い秋晴れで、11月にしては暖かい。渚は半年前の出店の時よりずいぶんと慣れた手つきで接客をこなしながら、にぎわう境内を観察する。

「本当にいろんなお店が出てるんですね」

 お菓子を販売している店もあれば、手作りの雑貨やら陶器やらアート作品やらを販売しているお店もある。中には自作の服を販売しているところもあった。

「せっかくだから休憩の時にゆっくり見てきなよ」

 今日は遥も余裕がありそうだ。聖も渚もずいぶん接客に慣れたことに加えて、今日は助っ人もいる。楓は残念ながら来られなかったが、レオとリュウが来てくれた。2人とも手際がよく愛想もいいので、特に年配の女性客にはウケが良い。

 恵まれた天候と助っ人2人の気持ちの良い接客効果もあって、午前中から午後まで客足は途絶えることがなかった。時刻は4時をまわり、そろそろ片付けの段取りを相談しようとした時のことである。屋台のカウンターに立つ渚と聖の目の前を真っ黒なカラスが数羽ビュンビュンと通り過ぎた、

「わ!」

 渚は思わず声をあげて身構えてしまう。同時に春先の記憶が蘇る。聖も緊張した面持ちになる。

「どうした?」

 屋台の後ろで休んでいたレオが声をかける。

「今、カラスが目の前を通り過ぎたからびっくりしちゃって」

 レオとリュウも表情を引き締めて立ち上がった。ただ今回はカラスが襲いかかってくることはなかった。

「ただの偶然だったみたい……」

 後ろの2人に声をかける渚の隣で、聖が「あっ」と声をあげた。

「すみません、まだやってますか?」

 正面に千歳がいた。

「天狗コーヒーを1つください。それとお2人が東京不思議新聞に参加されると聞きました。早速なんですけどまた相談したい案件が出てきたんです。お話を聞いていただけますか?」

 渚の左胸が高鳴る。


ー完ー

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武蔵野ゴシック 水無月薫 @kaoruyamamoto

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