一つだけ趣味が同じ そんな二人でも親友っていえるの?
歩
親友って?
「ねえ、教えてよ」
「だからぁ、知らないってば」
ほんの少し、嘘。
「ねえねえ、だからぁ、くぅちゃんなら知ってるでしょ? 和田君のこと」
親友って、何をもってそういうのかな?
いつも一緒で、気が置けなくて、同じことで笑える。
他のみんなは分からないっていう、渋い灰谷さんの演技。あの人の主演のなかでも特に評判が悪かった「待つ人」っての、私は今まで観た中で最っ高の映画だと思うんだけど。それに「うんうん」て、目を輝かせてうなずいてくれたのはヤッコしかいなかった。
古い映画。
それが好き。
特に渋い役者さんが好き。
50代以上の渋い役者さんが黙々と仕事をこなすような、ジーンと心に響くような。そんなの。古木の味わいっていうのかな? それとも苔むしたような寺社の、深い森の中に隠された、それを見付けた時の感動、みたいな?
「分かる! それ、それね!!」
ま、そんなのって、女子高生のフィーリングじゃないよね。
でも、ヤッコは同意してくれる。
「いい! すっごく、いいっ!!」
って。
だから、二人だけで話が盛り上がるのもしょっちゅう。
映画観て、その興奮のまますぐカフェいって、飲み物一つでさんざんその映画のことを二人だけでしゃべるの。
楽しいよ?
そういうことが出来るのが親友っていうのかな。
「そうだよ」
って、みんないう。
二人は親友だよね。うらやましいな、なんてことも。
それでも私は首をひねる。
確かにヤッコとは映画の趣味が合う。
役者さんの好みも一緒だ。
ゆうて、そこだけ。
ヤッコと私、決定的に違うところ。
「あの役者さんと付き合ったら、どんなところ連れて行ってもらえるかな? 大人の人って、いいよねえ」
とにかくヤッコは惚れっぽい。
そこはうんざり。
私は見ているだけでいいんだけどなあ。
推す気持ちは分かるけど、ヤッコのように「恋人になりたい!」ってのはない。
私は眺めているだけがいいな。
「そんなので満足できるわけ? 信じらんない!」
なんて、いつかヤッコがかみついてきた。
いや、だから、そんなのは個人の趣味じゃん。
誰をどう見ようが、好きになろうがいいじゃん。
私もヤッコが誰をどういう目で見ようが関係ないし。
「あたしはね、くぅちゃんとはラブな話もしたいわけ!」
もふもふのぬいぐるみが好きな私と、お化粧が好きなヤッコ。噛み合わないけど、それぞれその良さを語り合うのは好き。映画のワンシーンを切り取るような、コーヒーが飲めるヤッコがうらやましいと思いつつ、私はお子様映画のような甘いクリームソーダ。それもでも、ヤッコは何もいわなくて、「一口、ちょーだい」なんて、アーンしてくるのは鬱陶しいけど。そんなやり取りは好き。
でも、こいばなだけは、私は好きじゃない。
ヤッコは大好きで、それがどちらかというと中心で。
自分のそれもだけど、人のそれも。毎日、違う人のこと、誰が誰と何したとか、よく出てくるよね。どこからネタ、仕入れてくるわけ?
そんなすれ違いがあるのも、親友なの?
「和田君って、いいよね」
それを言い出した時はさすがに、「はぁ?!」って、声に出てしまった。
きっと珍しい生き物を見た目をしたと思う。
そんな目で見なくていいじゃんって、ヤッコ、さすがにしょげた。
「ごめん、ごめん」
でも、和田君だよ? ぶすっといつも不愛想で、口数少なくて、スポーツよりも将棋のほうが似合いそうな、私服がまたおっさん臭い和田君のことを?
「いいじゃん! 別に。でもさ、そういうところ、和田君てさあ、灰谷さんに似てない? それに気付いちゃったんだな、これが」
ああ、そうか、そういうこと。
それでもまだ、同意できない。
どうもやっぱ、ヤッコの惚れっぽいところは好きになれないなあ。
「年上が好きじゃなかったわけ? クラスの男の子なんてみんな子どもじゃんとか、前にいってたし」
「ふふん。同い年でもね、なんかこう、ビッとくるもんがあったわけ」
「なん、それ?」
「先生に頼まれた大きな段ボール、運んでたらさ」
「和田君に手伝ってもらった?」
「そこまで和田君って、女子に慣れてないじゃん。それがいいんだけどね。ただね、すっとね、道を開けてくれたの! なんかそこにこう、ビビビッて、来たわけ! 大人じゃん! つって!!」
「よく分かんない」
「ぶぅ。なんでもう、くぅちゃんはそうかなあ。リアルでも恋愛しようよ! 楽しいよ、誰かを好きになるのって」
知らないよ、そんなの。興味ない。
「とにかく! 和田君とは同中だったんでしょ? だったらさ、なんか和田君の趣味とか、どんな子が好きとか、知ってんじゃない?」
「知らないって、そんなの。同中だったからって、なんでそんなの……」
「だよねえ!」
なんでかヤッコ、それも楽しそう。
こういう見てて飽きないところは好きかな、ヤッコの。
「いっぺん、アタックしてみるか!」
「はいはい。好きにすれば?」
つれない返事にも、それでも笑顔が明るくて楽しそうなままのヤッコ。
そういうところも、私とは正反対かな。
ヤッコは私になついてくれている。
私もヤッコが、まあ、好き、かな。
ため息一つ。
とりま、黙っとこ。
私だけの秘密。
和田君……、
小学校も一緒だった。保育園も。
家は私のとなり。生まれた時から一緒。
あいつのことはだいたい、何でも知ってる。
両親が早くに亡くなって、私も大好きな、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしてる。そのせいか、えらく趣味が渋い。食べ物だって、なんかこう、地味なのが好み。ハンバーグより、秋刀魚の塩焼きとかサバの味噌煮とか。
おじいちゃんと一緒に釣りに行ったら、全然釣れないのにじっと、ずっと釣り糸たれている。
お地蔵さんにでもなったように黙っていつまでも。
真剣なその顔を見るのが、私は……。
やっと釣れて、はしゃぐ姿、みんなは知らないんだろうなあ。おっさん臭いとか、老け顔とか、そのものずばりであだ名がオヤジとかでも、その顔はすっごく子どもっぽいのに。
それが、好き。
それは秘密。
私だけの秘密。
ヤッコには教えてあげない。
何となく、ヤッコはきっと……。
それでもやっぱ、教えたくない。
一つだけ趣味が同じ そんな二人でも親友っていえるの? 歩 @t-Arigatou
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