とあるラブラブカップルの日常

大竹あやめ@電子書籍化進行中

秘密

「なあリオ、これ何て読むの?」


 ここは教室。オレは椅子に座るリオの肩に腕を回して、奴の目の前に教科書を広げた。


「ん? これは【せいりせいとん】だよ。もう……こんな漢字、小学生でも読めるだろ? かわいい奴め」


 リオはオレの頭をくしゃくしゃと撫でる。オレは嬉しくなって笑うと、教室の端の方で小さく悲鳴が上がった。


「ヤバい今日はいつも以上にラブラブ……!」

「サトルくんを見つめるリオくん……目が優しすぎて尊い……!」

「どっちかの学ランになってずっと二人を見つめていたい……!」


 聞こえてるぞと思いながら、オレはリオに「うふふー」とか言いながら抱きつく。オレたちを見ていた女子は、声にならない悲鳴を上げていた。


「リオ頭いーな。今日も家に寄って、一緒に勉強していい?」

「もちろん。サトル、昨日の小テストも正解率三十パーセントだったろ? もう少し頑張らないと」

「あははー頑張るー」


 そう言いながら、オレは教科書を机に置くと、リオの足を跨いで、足の上に向き合って座る。

 またどこかで悲鳴が聞こえた。


「こら、甘えん坊だなサトルは」

「えへへー。だって、オレら恋人同士だろ?」


 アイツらまたイチャついてんな、と男子生徒の声がした。


 そう、オレたちは自他共に認めるラブラブカップルだ。

 オレもリオも同じクラスだけど、片時も離れたくないほど、お互い相手が大好きだ。オレはリオに甘えるのが好きだし、リオも甘えられるのが好き。だから相性は抜群。こうして休み時間も思う存分イチャついて、帰り道だって一緒に帰る。手を繋いで。もちろん恋人繋ぎだ。


「リオはホント、オレのこと好きだよなー?」

「ん? 当たり前だろ? サトルの事なら何でも知りたいくらい好き」

「オレも!」


 帰り道、いつも通り恋人繋ぎをして通学路を歩く。隣を歩くリオはずっとオレの方を見ていて……照れくささと嬉しさで笑った。


「……そういえば昨日、弟にまた何か言われてただろ。大丈夫だった?」

「ああ、いつものやつだよ。オレとリオがラブラブ過ぎて気持ち悪いって」


 嫉妬だよな、とオレは笑う。昔からお兄ちゃんっ子だった弟は、リオにオレを取られて悔しがってるらしい。

 それならいいけど、とリオはため息混じりに呟く。


「サトルはかわいいから、弟が変な気起こさないか不安だ」

「ないない! 弟だよ? もう、オレはリオが大好きだって、いつも言ってるじゃないかー」


 オレは笑いながら言う。ちょっと嫉妬深いところも、オレの弟を警戒しているのも、好きの裏返しだから嫌な気はしない。


「だからって、サトルの好物の餃子を奴にあげなくたっていいじゃないか」


 サトルのご飯が減った、とリオは口を尖らせる。そんなところまで心配してくれるなんて、オレ愛されてるなぁ、と笑った。


「ご機嫌取りだよ。ほら、さすがに家に盗聴器が設置されてるなんてバレたら、リオはオレの生活、聞けなくなるだろ?」

「まあ、確かに」


 けどなぁ、と言うリオは不満そうだ。そしてやっぱり、オレの弟が邪魔だと呟くので、オレはリオに抱きつく。こんな風に、ちょっとのことで嫉妬してくれるリオが、オレはやっぱり大好きだ。


「うち両親いないし、オレもこんなだからさ。弟の心配性に拍車がかかってる気はする」

「心配性……ねぇ」


 リオは意味深に遠い目をする。あ、信じてないな?


「それよりリオ、昨日は寝る時間が三十分遅かったじゃないか。お風呂が少し長かった」


 話題を変えるついでに、オレもリオしか興味が無いことを示す。だって、恋人のことなら何でも知りたいからね。


「ああ……あれは……」


 すると珍しくリオは言い淀んだ。オレは上目遣いでリオを見ると、リオは少しかがんで耳にキスをしてくる。


「風呂の音も聞こえるようにした方がいいか?」

「うん……だって、リオがいつ何をしてるか、全部知りたい」


 オレは熱くなっていく顔を俯かせて呟いた。リオがキスしてくる時は、オレの全部が知りたい時。だからオレも、そんなリオに返事をする。……頬にキスをして。


「……分かった」


 リオはそう言うと、オレの唇に自分のを一瞬当てた。チュッとリップ音がなる。


 好きな人のことなら、その身体の奥も、心の深いところも、いつどこで何をしているかも、全部知りたい。そして同じく、オレの全部を知って欲しい。やましいことなんてないし、それが愛の深さだと思ってるから。そしてこれが、オレたちの愛のかたちだ。


 だからオレたちには、秘密なんて一切ない。


 オレたちは微笑みあって、やっぱりイチャつきながらリオの家に向かって歩いて行った。


[完]

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