お隣の小悪魔ちゃんは〝秘密〟好き
ライデン
第1話ギブアンドテイク
週末の夕方、俺は料理を作っていた。
独身貴族の俺、料理は嫌いではない。だが、普段は仕事が忙しいため、凝った料理は作れない。
週末に作り置きするのである。
今日の料理は、中華が中心。
唐揚げ、麻婆豆腐、中華スープ、ザーサイ、チャーハンetc etc
昔、中華料理店でバイトもしてたのさ!
よく育てた自慢の中華鍋をふるっていると……。
ピンポーン♪
ドアホンが鳴った。
「カイトさーん! たーすーけーてー!!」
全く危機感のない大声。
俺は火を消して、玄関へとダッシュ!
ドタドタ。バタン。
扉を急いで開ける。
人懐っこい笑顔で佇んでいたのは、お隣の女子高生・
「おいこら、
「だって……ピンチだったんだもん!」
てへペロと舌をだす杏奈。
サラサラの長い髪に親譲りの高身長。とても発育の良い豊満でスタイル抜群の体にモデル並み整った綺麗系の容姿。そして人懐っこい小悪魔というのが、この杏奈である。
高校でもさぞ人気者なんだろうが……。
(大丈夫か? こいつ)
れっきとした大人である俺からしてみれば、危なっかしい感じがして仕方ない。
俺の名前は、海斗。
食事に誘われることもある。
そんなこんなで家族ぐるみの付き合いがあるっちゃあるんだが……。何か、ことあるごとにお隣さんである俺を頼ってくるから困る。それも、ちょっとしたことですぐに!
俺は、(ご両親が仕事で忙しくて寂しいのかな?)なんて仏ごころでつい構ってしまう。
「今度は、何をやらかした?」
俺は、辟易した風に言った。
「やらかしたって言葉のチョイス、ひどくない? 〝袖すりあうも多少の縁〟とか、〝世の中、ギブアンドテイク〟とか言うでしょ?」
杏奈は、〝えーん〟って感じの泣きまねをする。
いや。こいつ特有の三文芝居で、全然、泣いてないからね?
「お前から何かをもらった記憶は無いけどな」
ギブアンドテイク? ギブはあってもテイクはないだろ。
「そう?」
「そうだよ」
「ふーん……そんなこと言っちゃうんだ!」
「何か貰ってるか?」
「女子高生は」
「ん?」
少しの沈黙。
「高いよっ! ……ぐむぅ」
杏奈の口を俺の手で慌てて抑えた。
チョイスがひどいのは、そっちだろ。おまわりさんに訪問されそうな言葉である。〝たーすーけーてー〟からヤバいが……。
「だからっ……天下の往来で(マンションの廊下)なんてことを叫びやがる! ほら、部屋の中に入れよ」
杏奈がこくこくと頷いたので、口から手を離した。
♠️
すんすん。
杏奈はリビングに入るなり、鼻を鳴らした。
「
涙目。
「人のうちに入って早々、〝辛い!〟って、なんだ?」
「……女子高生は、匂いに敏感なんだよ? 麻婆豆腐…でしょ? 匂いだけでこれって……食べたら、火を吹くんじゃない?」
「入れたのは、普通の唐辛子だぞ??」
ハバネロでもなんでも無い。量も普通。そんなに辛いはずが……
「普通の唐辛子でも、私には十分辛いんだよぅ」
「ぷっ……お子様めっ」
見た目は、大人。頭脳と味覚は子供。相変わらず、アンバランスな奴だ(笑)
「お子様っていうな! 辛味とは、痛み。喜ぶのは、変態さんだよっ。 そうだ!!」
〝ぷくーっ〟とむくれてから、〝ふふふ〟と悪い笑みを浮かべる杏奈。
〝変態さん〟は聞き捨てならないが……。
「今度は、何を思い付きやがった!?」
「麻婆豆腐を
…
……
「何を入れるつもりだ?」
「ちょうど私も料理してたんだよ。入れようかどうか迷ってたものがあってね。それを入れたら、なんでも美味しくなるんだ。それに、お隣がこんなに辛い匂いさせてるの、なんかやだ」
そういえば。こいつ、フリフリな感じのエプロンをつけている。
確かに料理中だったんだろう。
遊びたい盛りだろうに、共働きの両親にかわって家事をしているのは、とても偉いと思う。
それはともかく、
フリフリのエプロンをつけた妙齢の女の子って……
なんか、エロくね?
「だから、何を入れるの?」
「ひ・み・つ。 お台所を借りるねー。絶対に覗いてはいけませんよー」
杏奈は、いたずらっぽい顔をした。
「おう……」
鶴の恩返しっ!?
しかも、先払い。
♠️
「どうぞ」
食卓には、2人分の食事。
メニューは、麻婆豆腐にチャーハンに唐揚げにザーサイに中華スープである。あと、千切りキャベツとトマト。
(カロリー高いな)
まぁ、自分で作ったのだが。
麻婆豆腐の匂いは、確かになんだかまろやかになっている。
「ちゃっかり、お前も食うんだな」
「駄目なの? 1人で食べるより誰かと食べる方が美味しいって言うじゃん?」
「いいけどね」
「じゃ、食べよ」
前から思っていたが……なんだか、歳の離れた妹とかができた気分。下手すると、娘であってもおかしくないが。
♠️
「「いただきます」」
もぐもぐ。
リビングのテーブルで向かい合わせに座って食べる。
「お、麻婆豆腐のこくとまろやかさが増してるな。何を入れた?」
「だから、ひ・み・つ」
秘密…秘密…秘密。
あ、
「蜂蜜だろ?」
「なんで!?」
「秘された隠し味。蜂蜜。 略して秘密!」
俺はキメ顔で、そう言った!
「うーん……蜂蜜であってるけどっー。そんなオヤジギャグでは無いかな?」
言いにくそうに答える杏奈。
…
……。
(オヤジギャグ?)
ちょっとヘコむ。
「で、頼みごとってなんだよ?」
ヘコんだから……話題を変えた。
「うん……」
「言いにくいことか? 俺にできる範囲でなら相談に乗るよ?」
「お願い……」
「うん?」
「みりん、頂戴?」
杏奈は、可愛いらしく頼む。
みりん?
あー…砂糖を入れたあとにみりんが無いことに気づいたパターンか? そのパターンだと蜂蜜で代用すると、料理が甘ったるくなりすぎやすいもんなぁ。何を作ってたか知らんが。
確かに、ピンチだ。
「〝貸して〟じゃなくて、〝頂戴〟と来たか」
「調味料は返さないでしょ。普通」
「瓶は返すだろ?」
みりんなんてそんなにたくさん使うものじゃない。
確かに使った中身は返さないだろうが。
「それは…まぁ」
「調味料をお隣さんに借りにくるのも珍しい。買いに行かないのか?」
みりんくらい、コンビニでも売ってるだろ。
職業柄、こいつのうちが裕福なのは知ってる。買う金が無いとはとうてい思えない。
そして、このマンションからコンビニまで徒歩3分弱。
「知らないの??」
「何が?」
「みりんは、お酒。高校生は、買えないの!」
「あー、未成年は買えないのかー。お子様だね」
「むぅ。 他人のお子様とご飯を食べてもいいの? パパ活だよ? お小遣い案件だよ?」
パパ活? お小遣い案件??
「それは……お小遣い案件というか逮捕案件だな。偶然、一緒にご飯を食べることになったと親御さんにきっちり報告しておこう。みりんの件も含めて」
「本気で?」
「大本気。まぁ、みりんくらいで恩をきせるほどみみっちく無いし、対価なんて求めないけどね。一緒にご飯を食べることになった経緯は、説明しておかないと」
通報されかねん。
「真面目ー! 秘密の関係とかにしとかないんだ」
「秘密の関係って、なんだよ?」
「秘された甘い蜜みたいな関係? 略して、秘密!」
テーブルから俺の方に身を乗りだしてキメ顔で言う杏奈。
距離が……近い!
「ご飯を食べてるだけだ!」
俺は、杏奈の肩の辺りを軽く手で押し返しつつ言い返す。
なんか麻婆豆腐の匂いに混じって、甘い桃の匂いがフワッとした。女子高生の匂いである。
パパ活って、本当にご飯を食べるだけの関係なんだろうか?
やったことないし、知らん。女子高生とそれ以上の関係になりたいという願望もない。
(子供をお金で消費しようとする奴、反吐が出る!)
まぁ、若い子で寂しさを紛らわす感覚は分からんでは無いが……それに貴重なお金と時間と体力を使おうとも微塵も思わない。
「ふふふ。ついでにこれからも一緒にご飯食べてもいいか、聞いといてよっ」
「いいけどね」
ちゃんと話せば〝NO〟とは言われまい。隣のご夫妻とは公私とも真面目に交流してる。普段からの信頼関係はちゃんとできているはずなのだ。おそらく、「海斗君が側にいてくれたら安心だ」とお墨付きをいただけるのではないだろうか?
こっちにも、その信頼を裏切る気は毛頭ない。
しかし、たわいもない会話をしながらご飯を食べた週末。いつもより楽しかったし、ご飯も美味しかった気がした。
女子高生のノリとパワーついていくのは、大変でもあるのだが……
(なるほど。女子高生に限らず、学生という若さと身分そのものが高い……な)
貴重と言うべきか?
昔は俺も学生だったし、ただ同然だった物のはずなのに。
いや。パパ活はしないし、させないよ?
ダメ、絶対!
お隣の小悪魔ちゃんは〝秘密〟好き ライデン @Raidenasasin
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