助かったのは
南雲 皋
……*
いつから友達だったのかも思い出せないくらいに仲のいい友達、君にはいる?
ぼくにはいるよ、タロウくん。
タロウくんは村一番のお屋敷に住んでいて、本当なら村の端っこに住んでるぼくみたいなのとはお友達にもならないと思うんだけど、どうしてか気が合って、いつも一緒に遊んでいたの。
タロウくんはぼくより背が高くて、ニコニコしてて、きっとどこへ行っても人気者だろうに不思議だよね。
一回だけ聞いてみたことがあるんだ。
どうしてぼくと友達になってくれたのって。
そしたらタロウくんはにっこり笑って、ビビッと来たからって答えてくれた。
よく分からなかったけど、嬉しかった。
ある時、村に知らない大人たちが何人もやってきたことがあったの。
みんなお揃いの白い着物みたいな服を着てて、恐い顔をしてた。
村の大人たちもなんだかいつもと違う恐い顔をしてて、タロウくんは具合が悪そうだった。
「あの人たちは、悪い人たちなの?」
「そうだね、この村にとっては」
知らない大人たちはタロウくんのお屋敷にぞろぞろ入っていって、変なことをやっていた。
大きな焚き火を囲んで、ブツブツ何かを言ってるんだ。
タロウくんはどんどん顔色が悪くなっちゃって、熱も出てきて、ぼくと会えなくなった。
ぼくは悲しくて、どうしても会いたくて、お屋敷に忍び込んだ。
眠るタロウくんは、ぼくに気付いてちょっとだけ目を開けると、すごく小さな声でぼくに言ったんだ。
「焚き火の近くにあるぴかぴかする石を割ってきて」
「そしたらタロウくん元気になる?」
「なると思う」
「分かった」
ぼくは焚き火の方に向かった。
焚き火の周りにはずっと大人がいて、近付けない。
どうしようかと思ってたら、お屋敷の外から大人が一人走ってきて、叫んだの。
「ミコが殺された」
大人たちはざわざわして、みんなで慌ててお屋敷を出ていっちゃった。
だからぼくはチャンスだと思って焚き火に駆け寄って、石を探したよ。
ぴかぴかの石は目立ってて、すぐに見付けられた。
触るとピリピリして、ちょっと痛かったけど、タロウくんが元気になるためと思ったら大丈夫だった。
がしゃん!
石を思いっきり地面に投げると、かんたんに割れた。
割った瞬間、焚き火が勢いよく燃えて、ぼくはこわくなってタロウくんの部屋に逃げたんだ。
さっきまで寝ていたタロウくんは、もう顔色が良くなって起き上がっていた。
「ありがとう、助かったよ」
「ううん、元気になってよかった」
お屋敷が騒がしくなって、ぼくは見付からないうちに家に帰った。
そのあと少しして、知らない大人たちはみんな村から出ていっちゃった。
心配かけないように言わなかったみたいだけど、あの時タロウくんは死んじゃうかもしれなかったんだって。
危機一髪だったって。
お屋敷の人たちは見張られててなにも出来なかったから、ぼくとか、村の人に助けてもらわなかったら大変だったみたい。
タロウくんが死んじゃわなくて本当によかった。
タロウくんを助けてから、ぼくはお屋敷に堂々と入れるようになった。
お屋敷の人はぼくを見る度、ぺこりと頭を下げて見送ってくれる。
ウツワノキミって呼ばれるんだけど、変な呼び方だよね。
ぼくはシロですって言うんだけど、おそれおおいことですって言われて、結局名前では呼んでもらえないの。
まあ、ぼくの名前なんてタロウくんしか呼ばないから、別にいいんだけどね。
あの日から、前よりもタロウくんと仲良くなったような、ひとつになれたような気持ちがして、毎日が楽しいんだ。
人助けって、素敵だね。
助かったのは 南雲 皋 @nagumo-satsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます