エピローグ
ここはいつものファミレス。目の前にいるのは夏目渚沙。
こいつとは小学生の時からの仲だ。
昔は腐れ縁だった。だけど、今ではもっと深い関係だと思っている。
この光景が当たり前だと思って生きてきた人生だったけど、一度失って取り戻したことでどれだけ大切な光景だったのかを知ることができた。
渚沙と再会してからは、お互い多くを語らなかった。
未だに彼が何者で、俺の身になにが起こっていたのかはわからない。だけど、不思議と知りたいとは思わなかった。
よく映画やドラマを見ていると、相互に理解していれば、こんな回りくどい事態にならないのに、と現実的に評価してしまうことがある。
だけど、実際、物語の主人公になってみると、物事の真相をストレートに伝えることは、難しくて、結果的に回りくどくなってしまうものだとわかった。
知ろうとはしなかったが、一切の疑問を抱かなかったわけではない。
再会した後、なぜ突然いなくなったのか聞いてみたりもした。
だけど、渚沙は「色々とお願いしてたんだ」としか言わなかった。
なにを誰にお願いしたのかはわからない。
きっと俺では想像できないような内容なのだろうと思い、それ以上聞かなかった。
その後に渚沙は、疑問の解決や、真相なんてどうでもよくなるような言葉をくれた。
「慶太、好きだよ…」
その言葉に俺は時が止まったかのような感覚を覚えた。
まるでこの世界が静止して、俺と彼だけの時間だけが動いているような感覚。
周りから音が消え、渚沙の言葉だけが鮮明にリピートされていた。
俺の顔は知らないうちに熱を帯び、淡い赤色に染まっていた。
その姿が渚沙にとっての答えだったんだと思う。
「返事はいいの。ありがとう」
渚沙は俺になにも答えさせなかった。
性別、人種、恋愛観、そんな難しいことはわからない。
ただ、今のこの気持ち、心に響き渡る感情は、偽りではない。例え一時の高揚感だったとしても、それでもいい。
嬉しい、幸せ。それが全てだと思ったから。
それから、渚沙とは昔と同じようにファミレスで会っている。
同じように見える会でも、昔とは変わったところがあった。
話す内容が、哲学染みた内容ではなく一緒に行きたい旅先の話になったことだ。
日本国内はもちろん、海外旅行の計画を立てたりもしていた。
お互い働いているから、実際行けるかなんてわからないけど、計画を立ててみるだけでも結構楽しかった。
いつの間にか、楽しそうに談笑する俺たちの元へ遠藤さんが来て、話しかけるようになっていた。
店員と客の関係性は変わらなくても、彼女の中で俺たちが話しかけたいと思える存在に変わったような気がする。
今までだったら、話しかけられてもうまく笑えなかったかもしれない。
だけど、今は不純物なく笑えている自分がいた。
俺は昔より社交的になったと思う。自分で過大評価するのもよくないが、この空間が前より少しだけ華やかになったのは確かだった。
今日も渚沙とはファミレスで会う約束をしている。
入店すると、奥の席で渚沙が待っていた。
「ごめん遅れた」
足早に席へ向かった俺は、座りながら話した。
「それいつも付けてくれてるよね」
渚沙は俺の首元を見て話してきた。
俺はあの出来事から、渚沙と会う時は必ずハートのペンダントを付けていた。
「これがないとなんか落ち着かなくてな」
照れ臭かったが、俺にとってはこのペンダントがお守りのような存在になっていた。
「そういえば昔、神様にハートはあるのかって聞いたことあったよね」
「今はどう思う?」
渚沙が過去を懐かしむように質問してくる。
きっとハートのペンダントを見て、思い出したのだろう。
「今も昔も答えは変わらないかな。だけど、昔よりは明確にあるって思えるかな」
俺にとっての神様は渚沙だから。
それは、恥ずかしくて伝えられなかった。
「渚沙はどう思うんだ?」
渚沙はなぜか満足そうにして、微笑みながら答えた。
「慶太と同じだよ」
どこにでもある街のファミレス、外には整備された道路を行き交う車の排気音が鳴り響いている。
ロマンチックな情景は一切ないこの空間。
それでもこの時が、永遠に続いてほしいと思えた。
目の前にいる存在が、俺の人生に寄り添い、色をくれたから…
神様のハート 霜月斗(しもつき ほし) @haruton1998
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