3
ある日、進学塾の講師のアルバイトをしている翼は、新しい塾生の担当となった。
まだあどけなさが残る少年は立花大地と名乗った。
(立花?!)
翼はその名前を聞いて衝撃が走った。
翼が心に秘めて決して忘れることがない立花澪が瞬時に脳裏に浮かびあがった。
ひょっとして彼は澪の息子だろうか?
年齢的にはピッタリ合う。
どことなく澪にも似ているような面影がある。
もしかしたらという期待があった。
最初はぶっきらぼうだった大地だったが何回か教えるうちに笑顔を見せてくれるようになり学校の事、家の事など話してくれるようになった。
それとなく大地の母親の事を聞いてみた。
今も、南高校の養護教諭として働いているらしい。
「俺も南高校の出身で立花先生の事は知ってるよ」と翼が言うと
「マジですか?なんか母親の事を知ってるって照れますね」
とか言いながらも親近感が湧いたようだった。
翼はこの偶然に心躍るのであった。
翼は立花澪を六年後に迎えに行くと言ったことは本心で今も変わらない。
が、一番のネックは澪の息子だった。
彼に反対されたらこの約束も全てなかったことになる。
澪が「イエス」とは言ってくれないのは一目瞭然だ。
翼は新たに心に誓った。
大地に尊敬される先生になろう。
そして、人生の先輩として良き相談相手になろう。
幸いにも大地は翼に好感を持って尊敬もしてくれているようだ。
塾に行きはじめて順調に成績が伸びた大地は、希望の高校に無事合格することもできた。
その後も翼は大地とは時々連絡を取って、個人的に勉強を教えたりもしていた。
そのうち大地が無事に希望の大学に入ったら、俺の気持ちを正直に大地に話そう。
心を割って澪への真剣な気持ちを理解してもらおうと決めていた。
それまでは俺の胸にしまって秘密にしておこう。
翼自身も、念願の英語の教師となって一年目だった。
やがて、大地は希望の大学に晴れて合格した。
大地は母親よりも真っ先に翼に連絡を入れた。
翼は「よっしゃー!」と言って自分の事のように喜び大地の合格祝いに食事をご馳走したいと申し出た。
その食事の席で、翼は初めて大地に自分の気持ちを打ち明けた。
「実は俺、高校の時から君のお母さんである立花澪さんを真剣に思っていて六年後に迎えに行くと約束したんだ。その約束の六年後まであと一年になった。俺が澪さんを思う気持ちは今も変わらない。一年後には澪さんに正式に交際を申し込むつもりだ」
大地は当然色々な意味で驚いた。
信じられないというのが本音だった。
「えぇぇぇ~!!うそでしょ?!俺の母親今、確か三十……七だったっけ。バツイチ子持ちだよ。その子が俺だけど……」
翼は大地のリアクションに笑いながらも一番気になることを聞いてみた。
「お母さんに恋人はいないよな?」
「いるわけないじゃん」
これを機会に翼は大地に何度もあって真剣な気持ちを理解してもらった。
いつしか大地も翼の真剣な気持ちを知り協力者になって澪の情報もちょくちょく教えるようになった。
翼は大地に言った。
「俺は一年後に正式にお母さんに会いに行く。それまではこのことはお母さんには秘密だよ。これは男と男の約束だ」
こうして、翼は約束通り、大地の協力を得て、立花澪に六年後会いに行き交際を申し込んだ。
六年越しの翼の熱い澪への想いはついに実り歳の差カップルが誕生した。
【創作フェス】秘密 この美のこ @cocopin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
おしゃべりな昼下がり/この美のこ
★336 エッセイ・ノンフィクション 連載中 228話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます