第16話

「この人が……あの……青い封筒を……」

 昼休み。

 図書室の一角。

 両腕の中で開かれた、三十一期の卒業アルバムを眺め、そう呟いた。

 部活動の集合写真。

 その中の書道部の写真。

 そこに写る。

 向かって左端に立つ女性。

「田中……篠美……」

 写真の下に書かれた副顧問の名前を読み上げる。

……この人が……青い封筒を……そして……あの事件に……。

 ふと、脳裏に過る。

 近くにいたはずの憧れの人。

 でも、今は……。

……水香さん……。

 あの事件。

 それをきっかけに色んな意味で、遠い存在になってしまった。

 目指すべき人……だったのに……。

 結局、その人の事を、ほとんど知ることが出来なかった……。

……でも……一年半という短い間だったけど……学べるモノはたくさんあった……。

 私という人間に大きな影響を与えた存在であることは間違いない。

 そして、出来れば……。

「愛里っ! もう昼休み終わるよっ!」

 黒髪のロングで綺麗な女性が、手に持った黒縁眼鏡のレンズを拭きながら、私にそう言った。

「え? もう、そんな時間? 翔子ちゃんっ! 次の授業ってなんだっけ?! 」

「はぁ? 何言ってんの? あんたの授業でしょう? しかも、初めての……ちゃんと準備してんの?」

「……してない。忘れてたぁ。どうしよぉ……」

「はぁ。実習生なのに、気が抜けてるわね。まったく……」

「抜けてないもんっ! 今から準備します~っ!」

「はいはい。間に合うといいわね~……確か、授業は……私が担任のクラスだったよね~? 楽しみだなぁ~」

「もぉ~! 意地悪っ!」

 私は唇を尖らせてそう言うと、図書室を後にした。

……もぉ……翔子ちゃんってばぁ…………でも、頑張ろうっ!

 短い期間だけど、私は教育実習生として、【銀央中学校】に通うことになっていた。

 そう……。

 あの事件から……。

 二年が経っていた。

……きっと……水香さんも……今……。

「頑張ってるよね」

 そう呟くと、予鈴のチャイムが響く廊下を走っていった。


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フロアーⅩⅢの心象/愛里篇 百十 光 @hyakuto110

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